1 大学〜最悪な第一印象〜

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「お前のその名前……どうにかなんない?」 「何その理不尽な言い分。親からもらった大切な名前に文句があるわけ?」  六花は眉間に皺を寄せて不愉快そうに漏らす。しかしその姿を見た宗吾は思わず吹き出し、大きな声をあげて笑い出す。 「そうだよな……何言ってんだ、俺」 「……あら、あんたもそうやって笑えたんだ。びっくり」 「お前はストレートに言い過ぎ。もう少しオブラートに包めよ」 「仕方ないでしょ。自分の気持ちには正直に生きてきたのよ。まぁ確かに時々失敗したなって思う時もあるけど」  宗吾は立ち上がると、椅子を持って六花の隣に移動する。 「じゃあさ、その髪型と服装は?」 「……変えろって言ってるの? 嫌よ、これは譲れない。好きなものを変えるなんて絶対嫌ーーというか、あんたが気に食わなかったのってこれなの?」 「……だけじゃないけど」 「私みたいな子、世間じゃゴロゴロしてるはずだけど。なんで私だけ……」  言いかけて、六花はようやく理解したような気がした。彼の心を惑わす誰かがいるんだろう。  黒髪ロングのストレート、フェミニン系の、きっと私と同じ名前の女性に、彼は恋をしていたのだろう。少なくともこの二年間、その女性に心を燃やしてきたのね……。  その人の前では素直になれているのだろうか。いや、それはないだろう。だって素直になれていたらきっと想いを伝えていたはずだから。  六花が宗吾の顔を見ると、泣き腫らした目元がしっかりと見えた。その顔に手を伸ばしてそっと触れると、宗吾は小さく震えた。それから彼の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。 「泣けばいいじゃない。我慢しなくていいのよ」  すると嗚咽を押し殺すように、宗吾は口元を押さえながら泣き始めた。そんな彼を慰めるかのように六花は優しく頭を撫でる。 「……なんで……そんなことが出来るんだよ……」 「慰めてること? 別に理由はないんじゃない? 泣いてる人が目の前にいたら、誰だってこうすると思うけど」 「でも……!」 「まぁあんたから受けた仕打ちを考えれば、普通は躊躇うわよねぇ。でもなんて言うのかな……なんか初めて失恋した中学生みたいで放っておけない感じ? 母性本能ってやつ?」 「母性本能って……俺、お前と同い年なんだけど」 「私に対してあんな態度しか取れないんだから、お子ちゃまと同じでしょ? それにほら、蟹座の女は人一倍母性が強いのよ。知らない?」 「あはは! なんだよ、それ。初めて聞いた」  子どもみたいに笑う宗吾に、六花は初めて人として好意を持った。  彼は私を嫌っていたわけじゃないのね。自分の中のどうしようもない気持ちと葛藤していたんだ。それを知れただけでも、一人の人間を心から嫌いにならずに済んだ。
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