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大学を後にした二人は、特に深い会話は交わさなかったもののどちらからともなく食事に誘い、気恥ずかしさもあってか居酒屋へと滑り込んだ。
二人きりで居酒屋に入るのも話すのも初めてだったが、二人を隔てていたわだかまりが一つ取れたことで、意外と普通に話せることに気付いた。
「お前、兄弟とかいる?」
「いるよ。三姉妹の真ん中だもん」
「仲良い?」
「まぁね。同性だからお喋りとか尽きないよ。あんたは?」
「兄が一人。俺と違って好青年を絵に描いたような奴」
「……別に好青年の基準なんて人それぞれじゃない。誰かに比べられたりしたわけ?」
「別に……」
「それで拗ねてるの? 可愛いところがあるんだ。もっと早く知れたら良かったのになぁ。知らなかったの時間がもったいない」
「……うっせぇ……」
ツンツンしてるのは、自分を強く見せたいがための防衛手段なのねーー恥ずかしそうに頬を赤らめて顔を逸らす姿に、六花は気持ちが温かくなるのを感じていた。
「あのさ……今まで悪かったよ。勝手に怒って、その、いろいろ嫌な思いをさせたよな」
宗吾からの思いがけない謝罪を聞き、六花は驚いて目を見開いた。
「あんたからそんな言葉が聞けるとは思わなかった」
「……前言撤回」
「冗談だって。いいよ、わかってくれたならそれで」
「お前、結構いい奴だな」
「そうそう。なかなか良い女でしょ? まぁ男より女受けの方がいいんだけど」
「なんだよ、それ……あはは!」
楽しそうに笑う様子を見て、六花は少しだけ安心した。
「少しは吹っ切れた?」
宗吾に何があったか尋ねたわけではなかったので、どうとでも受け取れるような聞き方をした。しかしその質問は的を射ていたようで、宗吾は苦笑いをしながら俯いた。
「……どうかな。昨日の今日だし。ただ一人にはなりたくなくて大学に行ったんだ。こんな顔だから誰にも会えなかったけど」
そんな時に私が声をかけちゃったんだーー。
「最初は話しかけんなって思ったけど、今は良かったと思ってる」
六花の表情から心の内を察した宗吾がボソッと呟いたので、照れ臭くなった六花はグラスを持つと最後の酒を流し込んだ。
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