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「じゃあそろそろ帰ろうか」
「あぁ、そうだな」
そしてお互いにコートに袖を通してから荷物を持って立ち上がると、店の入り口へと向かった。
財布を出そうとした六花を制し、
「今日は俺に払わせて」
と宗吾が会計を済ませてしまった。
そのスマートな仕草に違和感を覚えながらも、彼の好意に甘えることにした。
あんな中坊みたいな態度だったり、大人みたいな対応だったり、なんだか不思議な人。でもたった数時間で彼の魅力に気付いてしまった。
駅に向かって並んで歩く。お酒を飲んで温かくなった体に、夜の冷たい空気が痛い。口から漏れる白い息が、目の前をぼんやりと覆っていく。
その時黙っていた宗吾が突然立ち止まり、六花の手を取ったのだ。六花は驚いて彼の顔を見たが、下を向いているため表情までは読めなかった。
「……なぁ、俺が慰めてほしいって言ったらどうする?」
思いがけない言葉に困惑し、思考が停止する。何を言っているんだと思いながらも、もしかしたらまだ六花には理解出来ないほどの悲しみを抱えているのかもしれない。
お酒が入っておかしくなってるのかな……。
ついさっき、ようやくまともな会話が交わせるようになったばかりの相手なのに、彼の想いを受け止めてあげたいと思い始めてるなんて、相当酔いが回っているに違いない。
「……慰めてほしいの?」
そう尋ねたが、彼は黙ったまま俯き微動だにしない。ただ六花の手を更に強く握りしめた。
「わからない……」
「わからないって……それじゃあわからないんだけど?」
宗吾は口を閉ざしたが、彼の手は微かに震えていた。もっとちゃんと言葉にすればいいのに……でもこれが彼なりの精一杯なのだろう。宗吾の不器用な仕草に胸が締め付けられる。
「……今夜だけだよ」
その瞬間、宗吾は何も言わずに彼女の体を力いっぱい抱きしめた。今彼はどんな顔をしているのだろうかーーきっと見られたくないって思っているに違いない。
六花は瞳を伏せると、そっと彼の背中に手を回す。そんな六花の肩に顔を埋めて震える宗吾がまるで小犬のように見え、六花は何故か胸が熱くなる。
大丈夫、一人じゃないよ。今夜は私が包み込むんであげる……宗吾に唇を塞がれた六花は、彼の首へと腕を回した。
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