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部屋の中へと移動して、愛生が一人遊びをする姿を見守りながら、二人はちゃぶ台を挟んで向き合って座っていた。
一通りのことを話し終えると、萌音は眉間に皺を寄せながら頭を抱える。
「つまり話をまとめると、貴島さんと六花さんは昔からのお友達で、お試し期間を経てから契約結婚の約束を交わしていたと……。な、なんてこと! いきなりの情報量が多過ぎる!」
「先輩は何か言ってなかった? ほら、前に彼と会ったっていう話をしていたから」
六花が聞くと、萌音は申し訳なさそうに小さく笑う。
「ごめんなさい、私は聞いてないの。二人のことも"可愛い後輩"っていって、大学時代の話を聞くくらいだったし。でもまさかこの間のパーティーで再会して、お試し期間の残り一週間を再開していただなんてーーそもそも、どうしてお試し期間中に逃げ出しちゃったの?」
六花が苦笑しながら愛生を見たので、萌音にもその意図が伝わった。
「まーちゃんを妊娠したのね……。それを貴島さんには伝えなかったの?」
「うん……言えなかった。彼ね、子どもは望まないって言ったの。だから妊娠したなんて言って、もし堕ろせって言われたらきっと耐えられない気がして……」
「怖くなっちゃったのね……。でも今回はどうして逃げたの? 上手く行ってたんでしょう? もしかしてまーちゃんのことを話して何か言われたとか?」
萌音の言葉に、六花は困ったように笑いながら首を横に振った。
「ううん、まだ何も話してない」
「じゃあ何があったの?」
「実は……彼が好きだった女性に会ったの。失恋して自暴自棄になっちゃうくらい好きだった人だよ。私を抱きながらその人の名前を呼んでたくらいだし、そう簡単には忘れられるはずがないと思うの」
「それで?」
萌音に問いかけられ、六花は膝を抱えて俯いた。
「……私ね、昔から元カノの存在とかすごく気になっちゃうタイプなんだ。だから朝夏さんに会ってから、あの人の顔が頭から消えなくて、いろいろ全体的に負けた気がしちゃったんだよね」
徐々に声が小さくなっていく六花を、萌音はキョトンとした顔で見る。
「でも貴島さんは六花さんをずっと好きだったって言ったんでしょ?」
「そ、そうなんだけど……萌音さんは好きな人の元カノとか気にならない? 私の悪い癖なのはわかっているんだけど……どうしても自分と比べてしまう……というか、好きな人が好きだった人のことは極力知りたくないっていうのが本音かな」
「あぁ……うん、なんか少しわかるかもしれない。私も翔さんには聞かないようにしてるから」
「あれっ、でもお二人って初恋の相手だって……」
六花が驚いたように顔を上げると、萌音は首を傾げて苦笑いをする。
「うーん……実はいろいろあってね。彼と初めて会ったのは、私が小学生の時だったの。だからお互いに初恋の相手ではあるんだけど、それ以降は接点がなくて。私ね、高校生の時に父親からお見合いをさせられそうになって、六花さんみたいに逃げ出したことがあるんだ」
「高校生でお見合いですか⁈」
六花の反応に驚いたのか、萌音は思わず吹き出した。
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