9 日常〜五日目〜

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「やっぱり。慎重な貴島さんのことだから、きっと再会するまで脳内反省会をかなりしてきたんじゃないかしら。あの時にこうすれば良かったとか、再会したらこうしようとか」  脳内反省会ーー確かに宗吾ならやりかねない。その姿を想像して思わず笑ってしまう。 「ま、まぁ……その……何だか久しぶりにすごくドキドキして……宗吾に流されたというか……」 「……流されたということは、イチャイチャしちゃったのね⁈」  両手で顔を覆って下を向いた六花を見て、萌音は顔を真っ赤にしてちゃぶ台に突っ伏した。天板を拳で優しく叩きながら、クネクネと不思議な動きをしている。 「どうしよう、聞いてるだけで動悸が治らない……。久しぶりの恋バナってこんなにも胸が締め付けられちゃうのねぇ」 「こんな話をするのって、元カレと別れて以来だから恥ずかしい」 「でも少し肩の力が抜けた気がするよ」 「えっ……」  六花が顔を上げると、萌音は六花を目を細めて見つめ口元に笑みを浮かべた。 「出産って、何だか一つの境界線だよね。今までの友達と会話が合わなくなったり、新しい友人が出来たり、生活に変化が訪れるの」 「そうかもしれない……」 「学生や独身の時にはあんなにお喋りを楽しんだのに、いきなり閉じ籠った空間での生活。一人はマイペースに出来るけど、悩みがあってもなかなか話せず自分で解決するしかないよねーー六花さんは自分のことをあまり話さないし、誰かに相談とか出来ているのかなぁって心配してたから、今日こうして話してくれてすごく嬉しい」 「萌音さん……」 「あのね、さっき六花さんは自分と比べてしまうって言ってたよね。それって誰が比べるの? 貴島さん? それとも六花さん?」 「えっ……そ、それは……」  そう言われたら、比べているのは自分自身だと気付く。朝夏さんには敵わない、宗吾は私より朝夏さんを見ているに違いない、そんな彼を近くで愛し続けるなんて苦し過ぎるーーだけどそれらは全て私の考えであって、宗吾のものではなかった。
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