1 大学〜最悪な第一印象〜

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1 大学〜最悪な第一印象〜

 大学に入学をして以来、六花(ろっか)には犬猿の仲とも言える男がいた。  というよりも、六花自身はその男のことを何とも思っていなかったが、何故か相手の方は彼女を嫌っているような態度ばかりみせるのだ。  顔を合わせれば嫌味の応戦を繰り返し、いつも眉間に皺を寄せた顔で六花を睨みつける。愛想が良いタイプの男ではないものの、明らかに他の女子とは違う態度に、最初は戸惑っていた六花も徐々に怒りが湧いてきた。  何か不快感を与えるようなことをしただろうかーー考えてみたが、思い当たる節は何一つない。  それならばこちらが我慢するのもおかしいという結論に至り、六花も同じような態度を返すようになった。そして二人は誰もが認める犬猿の仲と呼ばれるようになったのだ。 * * * *  カジュアルなファッションにピアス、髪は明るい茶色の宗吾に対し、フェミニン系の服を好み、黒髪ロングの六花は、明らかに対照的なタイプだった。  そんなこともあり、二人は同じ学部であっても、お互いに接点も興味もなかった。  六花が彼ーー貴島(きじま)宗吾(そうご)ーーと初めて話したのは、サークルの新歓の時。自己紹介の時に宗吾に話しかけられたのだ。 「阿坂(あさか)六花です」  そう言った瞬間、宗吾は目を見開いて六花を凝視した。しかし彼は六花の上から下まで視線を滑らせたかと思うと、すぐにため息をついて下を向いた。  彼の態度の意味がわからず困惑したものの、初対面の人間の反応だし、きっと知り合いに似ていたのだろうとあまり気に留めずにその場はやり過ごした。  しかしいつまで経っても宗吾の態度が変わらないことにイライラしていた六花は、サークルの飲み会に参加した時に、とうとう堪忍袋の緒が切れたのだ。    お互いに酔いが回り始めていた二人は、向き合ってお互いを睨み合う。最初に口火を切ったのは六花だった。 「あなた、一体何なわけ?」 「はぁ? なんだよ、いきなり。意味わかんねー」 「私が気付いてないとでも思ってるの? あんなあからさまな態度なくせに」  六花の言葉に困惑したのか、急に顔を背けたかと思うと、握りしめていたグラスの酒を一気に飲み干す。 「ほらやっぱり図星じゃない。私の何が気に入らないわけ? 顔? 態度? 話し方? そういうのってさ、言わないと伝わんないんだから」 「……知らねーよ」 「言ってくれたら直せるかもなのに」  宗吾は小さな声で呟いたかと思うと、気まずそうに下を向いた。 「……そういうことじゃないんだよ……!」  机の上に拳を叩きつけたので、六花は体をビクッと震わせる。心拍数が上がるのを感じていた。きっと彼の地雷を踏んでしまったのだろう。  立ち上がって店の外に向かう宗吾の背中を、六花は緊張しながらただ見ているしかなかった。
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