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相原が逝ってから半年、自分がどうやって過ごしていたのか、ほとんど記憶がない。
ただ繰り返し蘇る後悔の波にのまれ、僕は何度も自分を見失いそうになっていた。
相原と遥香を追い詰めたのは僕だ。
だから僕には二人を責める資格など何一つない。
相原の言う通り、僕はずっと自分に嘘を付いていたのだから。
僕は今、ベッドに横たわる遥香に見守られながら、小さな命の塊を両腕に抱いている。
相原が残していった命。
少しでも力を間違うと簡単に壊れてしまいそうな儚さ。
これから僕の一生分をかけて償うと決めたはずなのに、まだ全てを受け入れるのが怖かった。
相原の面影を見つけるたび、募る想いに苛まれ、また後悔の渦から抜け出せなくなるかもしれないから。
恐る恐る両腕の中をのぞくと、その小さな命は全身で僕を信頼し、やわらかい温もりを放っていた。
開ききらない瞼。微かにすぼめる唇。小さな手を動かし何かを探している。
遥香に促され、そっと小指を差し出すと米粒のような小さな指でギュッと握り返され、感じたことのない感情が体の奥から溢れ出した。
悲しみの淵で、ずっと麻痺していた五感が一斉に動き出す。
僕はどうしていいかわからず、気付くとその小さな温もりを両腕に抱きしめ、恥も外聞も捨て嗚咽を上げていた。
甘酸っぱい匂いが、どんどん僕を解き放っていく。
もう僕は、きっとこの子を手放す事は出来ないだろう。
病室の窓からカーテン越しに、金色の朝日が差し込む。
ふと誰かに呼ばれた気がして目を細めると、眩い光の中で相原が僕に向かってあの日のようにサムズアップを示した気がした。
またあのハチミツのような甘い笑顔で。
懐かしさが今度は怒涛のように押し寄せる。
相原に会いたくて。たまらなく会いたくて。
相原、ごめん。
ずっと伝えそびれてしまったんだけど、
僕もずっと相原が好きだった‥‥
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