1.出会い

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その日、アリアネは仕事が一段落したので、家の中で趣味の刺繍をしていた。 しかし、思うようには捗らず、軽い溜息を吐いた。 「アリア。外はいいお天気よ。気分転換に散歩でもしてきたらどうかしら?」 その様子を見ていた母親にそう声を掛けられて、アリアネは頷いた。 「そうするわ。久しぶりに森の方に行ってみようかな。夕飯の頃には帰って来るから。」 「森の方に行くの?それじゃあ、妖精と会わないように気を付けて。」 妖精に会わないように気を付けて。 それは村の人間が森に行こうとする人に掛ける挨拶のようなものだった。 なんでも大昔はこの森の傍には大勢の妖精が暮らしていたらしい。最も、今となっては彼らは人間達を嫌いになったのか、遠くに引っ越して滅多に姿を現さなくなったが。 「ええ。気を付けるわ。」 アリアネは自分の母親にそう返事をして家を出た。 外は雲一つない良い天気だった。 「確かに良い天気ね。家の中に閉じ籠っているのは勿体ないわ。」 そう言うと、彼女は村の傍にある森に向かって歩き出した。 何故か、アリアネは昔から森の中にいることが好きだった。勿論、村で過ごすのも好きだけれど、森の中にいると帰る場所に帰って来たという気分になる。特に子供の頃はふと目を離した瞬間にいなくなったと思ったら、森の中で転寝をしていたなんて事がよくあったそうだ。 母親であるアンドレラはそんなアリアネのことを心配しつつも、一人娘の大事な個性として受け止めていた。 もし、アンドレラが娘の気持ちよりも、世間体を気にする女性で、「いつまでも夢みたいなことを考えていないで、早くお嫁に行きなさい。」とか、「もう大人なんだから森で過ごすのは止めなさい。」なんて事を言っていたら、二人の出会いは無かったのかも知れない。 しかし、幸か不幸かアリアネは森の中でその妖精と出会ってしまったのである。 その出会いはアリアネが森の中にある湖に行こうとした時に起きた。大きな木の下にその銀色の髪をした美しい少年は、ぐったりと横たわっていたのである。 彼の顔色は酷く悪く、紙のように真っ白だった。 その少年を見たアリアネは驚いた。急な病気になって動けないでいるのではと思ったからだ。 「大丈夫なの?近くに家族がいるなら呼んできましょうか?いえ、村のお医者様を連れて来るから、」 アリアネがそこまで言った所で、その銀髪の少年が閉じていた目を開いた。 彼の目は夜空の星のような美しい銀色で、そんな状況ではないにも関わらず、彼女は思わず見惚れてしまった。
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