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「人間か。俺を殺すのか?」
銀色の少年はそう掠れた声で呟いた。
その言葉を聞いてアリアネはひどく驚いた。
「何を言ってるの!そこで待っていて。今から人を呼んでくるから。」
そう言って、村に向かって足を踏み出そうとしたアリアネをその少年は腕を掴んで引き留めた。彼女はその少年の体温が人間では有り得ないぐらいに低くて驚いた。
まさか、この人はー。
そんな言葉がアリアネの脳裏を過った。
その少年はアリアネの過った思考を肯定するかのように次の言葉を言った。
「俺は人間ではない。妖精だ。害意がないなら他の人間は呼ぶな。」
頼む。
そう少年に続けて言われて、アリアネは呆然としてしまった。
幾ら村の言い伝えに憧れを持っていたとは言っても、本当に妖精に出会えるとは思っていなかったからだ。
しかし、その少年の苦しそうな顔を見て、彼女は正気に戻った。
「あ、あの。随分具合が悪そうだけれど大丈夫なの?なにか、私に出来ることがあるなら…。」
彼の外見は村に住んでいるアリアネの弟分と同じ年頃だった。元々、憧れを持っていたことを差し引いても、彼をそのまま放っておく気にはなれなかった。
「人間の女が妖精の俺を助けようと言うのか。」
そう言って、銀色の少年はアリアネを見詰めた。まるで見たものもないような不思議な動物が急に目の前に現れたかのような驚いた顔をしていた。
「ええ。」
そう言って、アリアネが静かに頷くと、少年は細く息を吐き出した。
「お前が本気なら生気を分けて欲しい。俺は魔力の使い過ぎで生気が枯渇して、こうなってしまったんだ。」
「生気?どうやって?」
アリアネが困惑していると、少年は「手荒には扱わない。手を貸してくれるか。」と言って、彼女の手を壊れ物でも扱うかのように優しく取った。
そして、その手を口元に持って行くと、軽く甘噛みをした。アリアネは驚いて叫びそうになったものの、どうにか声を押し殺した。彼の邪魔をしたくなかったのだ。
彼女は自分の体から何か大事なものがするすると流れて行くことを感じた。やがて、どれぐらい時間が経ったのだろう。1分だったかも知れないし、1時間かも知れない。
その少年はアリアネの手から口を離した。少し回復をしたのか、顔には赤みが差している。しかし、彼は木の下に横たわったままだ。
「お前の生気は酷く甘い。歯が溶けそうだ。」
そう、少年は何処かうっとりとした顔で言った。アリアネは急に恥ずかしくなり、彼から一歩距離を取った。彼女は自分の顔がひどく熱いと感じて、きっと赤面をしているだろうなと思った。
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