1.出会い

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「人間の女、この恩は必ず返す。我が名に掛けて誓おう。妖精は人間相手であっても、約束は絶対に守る。」 アリアネはその妖精の少年の言葉に息を呑んだ。 まるで結婚の約束をするような、騎士が主君に忠誠を誓うような、神聖な響きがあったからだ。 彼女は慌てて首を振るとこう言った。 「そんなに大した事ではないわ。それより、もう体は大丈夫なの?」 すると、少年は痛い所を突かれたと言う表情をした。 彼女は彼のそんな表情を見て、余計に心配になった。 「ねえ、なにか言ってくれるかしら。」 アリアネが続けてそう言うと、少年は渋々と口を開いた。 「まだ本調子なわけではない。このまま1ヵ月ほど、この大樹の下で体を休めていれば、回復をするだろう。」 「そんなに?ここは村からそう離れていないのよ。この森にはあまり大人は入りたがらないとは言え、偶に子供が迷い込んだりするの。それに、普段はもっと奥に行かないと出会わないけれど、稀に体の大きな動物がここまでやって来ることもある。危ないわよ。」 彼女がそう言うと少年は顔を歪めた。 「仕方がないだろう。まさか、お前が七日七晩、ここに通って生気を分け与えてくれるわけではあるまいし。」 「え。通っても構わないわよ。」 アリアネは冷めかけていた頬がまた熱くなるのを感じながら言った。 男性と口付けたこともない彼女にとっては、先ほどの行為は少々刺激が強かった。 そんなアリアネに対して、少年は不思議そうな顔をした。 「人間の女。一体、何の下心がある?俺は名家の生まれとは言え、女王に逆らい国を追放された身だ。大したものは差し出せぬ。」 「下心だなんて…。あなただって、弱っている妖精の女の子がいたら助けるでしょう?それと同じじゃないかしら。」 そう言うと、銀色の少年は暫く考え事でもしているかのように黙り込んだ。 アリアネは彼を置いて行くことはせず、黙って傍にいた。 恐らく、村の人たちに知られたら血相を変えて、そんな得体の知れない妖精には関わるなと言われるだろうことは、彼女は理解していた。 しかし、アリアネはどうしてもこの銀色の少年を放っておく気にはなれなかったし、それだけじゃなくて知りたかったのだ。 男女の間にも永遠の愛とはあるかどうかを。 もし、この銀色の妖精にはっきりと「大人の男女の間に永遠の愛なんてものはない。」と言われたら、自分の憧れにきちんと終止符を打って、特別に愛せなかったとしても穏やかな好意を注げる心の温かい男性の元に嫁げそうだったから。
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