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2.交流
次の日の晩。アリアネは母親が眠りに落ちたのを確認して、そっと家を抜け出した。あまり昼間に頻繁に森に通っていると目立ってしまうので、人目に付かないように夜にこっそりと通うことにしたのだ。
もう居なくなってしまっているかも知れない。彼女はそんな不安を抱えながら、あの妖精のいた大きな木のある場所に急いだが、そこにきちんとその銀色の少年は横たわっていた。
真夜中で暗くなっている中、その少年は薄く発光しており、少し遠くからでも見つけることが出来た。その様子は銀色の髪と目と合わさって、どこか夜空に浮かぶ月のように美しかった。
「ねえ、起きているかしら。」
アリアネは少年にそっと声を掛けた。
彼の瞼は閉じていたし、眠っていたら悪いなと思ったのである。
「本当に来たのか、人間の女。こんな夜更けに森に一人で来るとは危機意識はないのか。」
その少年はけだるげにそう言った。
アリアネは言われてみるとそうかも知れないと心の中で思った。
「大丈夫よ。何故か、私は昔からこの森の動物には好かれやすくて1度も怖い目にあったことはないから。それに、この森の近くに住んでいる人達は、全員顔見知りだけれど皆良い人達よ。最近、余所から人が来たなんて話も聞かないし…。」
「話に聞かないだけで余所者は来ているかも知れない。現に余所から来た妖精がここにいる。」
そう少年に指摘されると、アリアネはあまりに考えなしだったかと思い、落ち込んでしまった。だって、滅多に会えない妖精と出会うことが出来て浮かれていたんですもの。彼女は心の中でそう呟いた。
飼い主に叱られた猫のようになっているアリアネを見て、銀色の妖精は一つ溜息を吐くと、軽く彼女に向けて指を振った。
すると、一瞬彼女の体に魔方陣が浮かび、すぐに消えた。アリアネはその一瞬だけだが、お風呂に入ったような温かさを感じて驚いた。
「悪意を持つ他人から見つかりにくくする守護の魔法を掛けた。今の俺では大規模の魔法は使えないから、簡単なものだが何もないよりはマシだろう。」
「これが魔法なのね!すごいわ!でも、たださえ具合が悪いのに無理をしたら、もっと悪くなってしまうのではないの?」
アリアネは初めて見た魔法にはしゃいだが、すぐに目の前の少年の体の心配をした。そうしたら、彼は片眉を上げてこう言った。
「舐めるなよ、人間の女。俺は偉大な妖精だ。この程度の魔法なら息をするのと同じぐらい簡単に使える。幾ら不調であったとしても、この位なら負担になどなりはしない。」
すると、良かったわと言って真冬に灯ったささやかな火のように暖かく笑ったアリアネを銀色の妖精は不思議な物を見る目で見ていた。
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