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1.出会い
18歳の時にアリアネ・クライダウンは、村の傍で銀髪の少年の姿の妖精に出会った。その出会いが少女の人生を大きく変えることになる。
その村は王都から遠くに離れた田舎にあった。そこに住んでいる人達は全員顔見知りで、時々旅人がやって来ると噂になるような小さな小さな村だった。
村人の気性は穏やかで、自分たちの村で作っている名物の葡萄酒を殊の外自慢に思っていた。そこで、生まれた子供たちは、村の大人たちによって優しく見守られていた。
さて、そんな平凡な村にも少し変わった所があった。
それは「絶対に妖精と愛し合ってはいけない。何故なら、妖精から永遠に愛されてしまうから。」という言い伝えがあることだ。
アリアネは18歳になって周りの女友達が次々と花嫁になる年頃になっても、まだこの言い伝えに何処か憧れめいた気持ちを持っていた。
だから、アリアネは幼馴染であるミリーにこんな話を切り出された時、少しだけ困ってしまったのだ。
「もう!またアリアったらぼんやりしている!ねえ、あなたは誰に嫁ぐのよ?ロジー?ハリス?クレイ?さっさと決めないと嫁ぎ損ねちゃうわよ。」
ミリーに勢いよく聞かれて、アリアネはしどろもどろになった。
「えっと、皆断っちゃったわ。だって、それぞれ素敵な所はあったけれど、特別愛おしいなんて思えなかったし。」
そんなアリアネの返事を聞いて、ミリーは呆れたように溜息を吐いた。
「特別愛おしいって…。アリアったら夢見がち過ぎよ。いい!結婚は現実なの!誠実で仕事をきちんとしていて、自分を大事にしてくれそうな男の人なら、それで充分じゃない!」
アリアネは、この燃え盛る火のような赤毛を持っている面倒見のいい幼馴染であるミリーが今年の春先に隣の村の男の人との結婚をするのを決めたことを知っていた。
「その、確かミリーは隣町のキリスさんと結婚することに決めたんでしょう?確かに彼は真面目で優しそうな人だったけれど…。それで良かったの?」
「ええ。きちんと自分で考えて決めたことだもの。私はあの人の花嫁になって、幸せな家庭を作るわ。」
そう言ったミリーの横顔は毅然としていて、アリアネは少しの間見惚れてしまった。
「ミリーだったら、きっと良い奥さんになれるわ。相手の方は幸せよ。」
そのアリアネの言葉は決して上辺だけのものではなく、心からのものだった。
それが伝わったのか、ミリーは照れくさそうに笑った。
「ありがとう。でも、それはアリアも一緒よ。あんたは美人だし、ちょっと地に足が付いていない所はあるけれど、純粋で優しい。早く、良い人を捕まえなさい。」
そう言うと、ミリーは家の手伝いがあるからと行ってしまった。
アリアネはぼんやりとその後ろ姿を見送った。
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