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「遥香、誕生日おめでとう!」
「雪乃も悟も久しぶりだね。うち狭いけど、どうぞ」
雪乃は高校からの、悟にいたっては小学校からの付き合いだ。
「予定日はもうすぐなの?」
「うん、再来月」
「どっちかはもうわかってるんだよね?」
「女の子なんだって。名前ももう決めてるんだよね?」
雪乃が悟に同意を求めるように目配せをした。
「ああ、女の子とわかった時点で決まったんだよな」
「何ていう名前なの?」
「『はるか』よ」
「えっ?」
「だって、遥香は私たちの愛のキューピッドでしょ?」
そうだった。私は10年前、悟と雪乃を結びつけたのだ。
「それでね、今日は……」
*
10年前。
私たち三人は高校三年だった。
夏が終わり運動部員も引退し、本格的に大学受験の準備に入りみんなピリピリし始めている頃だった。
「私、山之内くんのこと好きなんだよね」
「え、山之内って、悟のこと?!」
「あ、でも本人には絶対に言わないでよ。恥ずかしいから」
私に打ち明けたのは高一から同じクラスでいちばんの親友、真嶋雪乃だ。
私は内心驚いた。
こんなに雪乃といっしょにいるのに全く気づかなかったし、それに雪乃は恋愛には興味がないのだと思っていた。
そして、好きな相手が私の小学校からの幼なじみの悟とは!
「それなら、私が取り持ってあげるよ」
「待って!それだけはやめて!!遠くから見るだけでいいから!!」
「わかったよ」
あまりに照れる雪乃にわかった振りはしたものの、悟にそれとなく伝えようと策を練り始めた。
しかし、最近は悟と話せていない。悟は小学校の頃から野球をやっていて、うちの高校も野球で入ったようなもんだ。ポジションはショートでキャプテン。
この夏は甲子園目指して頑張っていたのだが、県大会準決勝で優勝候補の高校にサヨナラ負けした。それから、落ち込んだ悟に、野球のことをたいして知らない私が慰めるのはお門違いと思い、話すどころかむしろ避けているのが実状だった。
雪乃の告白から一週間後、悟の方から私に話があると言ってきた。
「甲子園目指して頑張ってたのに、残念だったよね。なんか、私の出る幕じゃないなって思って話しかけづらかったの」
「まあな。けど、そっちは諦めついたよ。全力出しきったしな」
「そっち?」
「うん、実は……」
「実は何?」
私がうつむいた悟の顔を覗き込むと意を決したように言葉を発した。
「俺、好きなんだ、まじま……」
「えっ?ウソ……雪乃のこと好きだったの?!」
「あ、いや、違……」
「悟、やったじゃん!両想いだよ!!」
それからふたりは付き合い始めた。受験勉強もふたりでやっていたようで東京の偏差値の高い大学にパスした。
私はといえば、県内の女子大に行くことになった。
あれから、もう10年。
悟と雪乃は5年前に結婚した。
私はその結婚式に盲腸になり入院していて出席できず。
そのあとは会社の海外支店に長期出張となり、半年前に帰国した。
なので、ふたりに会うのはたまに会っていた大学以来6年ぶりなのだ。
**
「それでね、今日はカミングアウトしようと思ってね」
雪乃はそう言って、悟と顔を見合わす。
「遥香は私たちの愛のキューピッドなんだけど……」
「けど?」
「ほんとはね、遥香が思ってるのと違うの」
「どういうこと?」
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