40.おいら娼館のオーナーになるんだっ!後編

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「ウフフ、あなた♡」 「ははは、なんだい?」  イチャイチャする新婚夫婦の下へ。 「ズズズッ、はあ~。今日も平和じゃ」  茶を啜るご婦人の下へ。 「ああー標様が私を貰ってくんねえかなー。ヒック」  やけ酒三昧やさぐれ女の下へ。 「…………喝!」  族長夫人、マンハッタンの下へ。  御伽衆と名付けられた影の者たちが出現した。 「緊急事態ですっ!今すぐに用意を!」  イチャイチャも、安穏としたひと時も、御伽衆配下たちの出現と、緊急事態という言葉に、表情が引き締まる。 「容態は!」 「下半身が……その……」  口籠る若手御伽衆。  それに苛立ったのは、新婚でまだうら若い女性だった。 「下半身てのはどこなの?チ○コ?標様のことだからチ○コなんでしょ?」 「は、はい」  やさぐれ女の酔いは覚め、御伽衆の襲来を予期していた族長夫人マンハッタン、この両名は何も聞かずにただ一言。 「行くよ!」  そう言って影に沈んだのだ。  彼女たちこそ、何を隠そう魔族の癒し手「木曜こそでしょう」である。  影から飛び出す「木曜こそでしょう」の面々。一様に緊張感を湛えているが、どこか楽しみを忘れない子供心のようなものがある。  出来立ての娼館はとても清潔で、とても綺麗なものであったが、不思議な光景を目の当たりにした彼女たちは、感嘆の言葉を漏らす間もなく、すぐさま戦闘態勢に入った。 「このエルフが何かしたのかな?タケ子さん」 「しゃーなあー。よー分からんわにゃあ」  タケ子は「木曜こそでしょう」の次鋒、冷静沈着な思考と鋭い観察眼で、村に流れる噂から隣人のスキャンダルを白日に晒す、探偵調薬師だ。  キョロキョロと辺りを観察し、最善な治療法を探し求めるのは、「木曜こそでしょう」先鋒で新婚のウメ子。結婚するまで男を知らなかった分、生殖器や性病、性交時に起きがちな負傷や分娩まで、性に関する豊富な知識で患者の苦しみの元を発見する、性の探訪者だ。 「ったく、結婚してくれれば、何でもしてあげるってのにさあ」  ボヤキながらも標様の患部を凝視するのは、「木曜こそでしょう」副将のマツ子だ。  嘔吐や失禁、族長への暴行や、行きずりの男との情事まで、ありとあらゆる酒の失敗をモノともせず、胃もたれ、胸焼け、二日酔い上等、おっさんのような体調でも、あらゆるケガを縫合してきた外傷治療のスペシャリスト。  結婚への熱き想いを胸に、今日も酒を呷る、呑兵衛のやさぐれ女だ。 「ディキよ、状況説明を。マツ、タケ、ウメは治療法を考えておきなさい。ふーむ、どうしてこんな事になるのです、標様」  族長の妻であり、魔族たちを癒やしてきた、慈愛の母マンハッタン。  言わずもがな「木曜こそでしょう」の大将であり、副将以下からは、愛情を込めてマ◯子と呼ばれている。マンハッタンと子を組み合わせて、マ◯子だ。 「マ◯子様、この腫れは毒かもしれません。我々も警戒したほうがよろしいのでは?」 「毒はあり得ん。ディキやエルフが生きておるのが証左になろう?それから、その呼び名は止めい」  本人はマ◯子という呼び方を嫌っているため、「木曜こそでしょう」の会員からは、マン姐さんと呼ばれている。  たまーに新入りのウメ子が間違えると、今のようにマン姐は注意するのだが、そこにはやはり慈母たる優しさが溢れているのも、彼女の慕われる所以である。 「娼館を建てるということで、奴隷を買い入れ、面接をするということでした。ケケッ」 「……それだけなのかね?」 「申し訳ありません。モヒートが付きっきりでしたので、私は別件に対応しており……ケケ」 「目を離していたのだな。してモヒートはどこにおる?」 「ケケケ、そろそろ来るかと――」  ディキの言葉通り、ドタドタと重たい足取りが近づき、軽いドアを思い切り開け放った。  バアンッとけたたましい音の奥から、息も絶え絶えのジョン、もといモヒートが口を開いた。 「ぜえ、ぜえ。も、申し訳、ありません。一体何が……」  目に飛び込んだのは、浮き出た血管が黒ずみ破裂寸前になっている陰茎と、白目を剥いて倒れているジローの姿だった。 「ジ、ジロー!」  顔面蒼白になり、慌てて駆け寄るモヒートだったが、ジローへ辿り着く前にズッコケた。  足を引っ掛けた女がいたからだ。  眉を吊り上げて目下の男を睨みつけるマツ子。  今にも殺してしまいそうな怒りが顔に表れ、どす黒い魔力が溢れている。 「仕事放ぽって何してたんだ?」
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