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「ご、ごめんなさい…」
少年は言った。別に謝って欲しいわけではない。暗い顔をして一人何を考えているのかと聞いただけだ。
「謝ることは何もない。こんな場所で何をしているいのかと聞いたまで。」
すると少年は再び目線を自分の足元にやった。驚きと共に緊張で伸び切った背中がそれと同時に曲がっていった。このまま地面に吸い込まれてしまうのかと思う程、少年は頭を落としていった。
「誰もいないからここにいるんだよ。人がいると疲れてしまう。」
「でも私が来るまでも相当疲れていそうだった。」
私は言った。前側に垂れた少し癖毛で短い髪の隙間から見えた少年の口が力無く笑った。
「もう全部嫌なんだ。生きてたって嫌なことばかりだよ。」
少年は小さく言った。
「誰かが言った。何でお前は生きてるんだって。僕にもわからないよ。」
恐らく少年は若くして酷い目に遭っているのだろうことが、その様子から伝わってきた。雛鳥は親から食べ物を与えられないと生きていけない。花は水がないと死んでしまう。目の前にいる骨に皮を被ったような少年は、ろくに栄養もとれていないのだろうか。
一度言葉を零した少年の口からは、捻り忘れた蛇口から留まらず流れ続ける水のように言葉が次々と溢れ出た。
「僕には居場所がないんだ。学校にも、家にも、どこにもない。母さんが死んでから父さんは人が変わったみたいに荒れてしまったし、水道が停められて風呂にも入れない僕は学校ではウジ虫扱い。僕に味方なんかいない。僕なんか死んだ方がいいんだよ。」
まだ若い少年にここまで思わせるその環境が、少年を押し潰そうとしている。よくいる大人ならきっと、大丈夫だよなんて声をかけては背をさするだろう。
だが、私はそんな無駄なことはしない。私には少年の環境を変えることが出来ないからだ。代わりに私は沈黙の中、少年の右隣のブランコに腰をかけた。いつもは少年の位置に座ってしまうから、この子に座るのは初めてだ。私が座ると錆びた鎖が鳴いた。静けさが覆う公園に年季の入った音が響き渡る。おまえもこんなに年寄りだったんだな。少しそれに揺られながら、私はそう思った。
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