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「居場所がないことは、死ぬ理由にはならない。」
少しの沈黙の後、私は言った。少年が俯けていた頭を少しこちらに傾けたのがわかった。
「他の誰かに与えられると思うな。居場所は自分で作るものだ。」
弱っている少年に対して何て酷い言葉をかけるんだと非難されかねない。だが、それが真実だ。
「僕にどうしろって言うんだよ。学校は行かなきゃいけないし、家には帰らないといけない。どうしようもないじゃないか。」
少年がそう考えるのは自然なことだろう。人には住む家があって、親が二人いて、学校に通って勉強して働きに出る。それが当たり前のことだと世間が教えているからだ。
そう、教えこまれているからだ。
「それはお前が勝手に思い込んでいるだけだ。行きたくないなら行かなくていい。帰りたくないなら帰らなくていい。元々お前は自由なはずだ。それを縛っているのは周囲でもあり、お前自身でもある。」
私の言葉に、少年は再び頭を沈めた。
「それが出来たら苦労はしないね。」
重いため息のように吐き出した少年の言葉は、ブランコに座るぶかぶかの黒いズボンに落ちた。糸くずが飛び出ているそのズボンの色は、白い少年を闇に包んでいるようだった。
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