ブランコと私

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 少年が口を閉じた空間は、再び静寂に包まれた。聞こえる音はと言うと、数分に一度揺らすブランコの高い音と、たまに吹く風の音くらいだ。変わりゆく空の色が刻まれた時間を教えてくれた。もう夕方だ。肌を撫でる風も大分冷たくなった。  「またここに来てもいい?」  ようやく口を開いた少年はそう言った。正直何度も来られると、人がいる感じがしてしまう。それは私がここにいられる時間をきっと短くするだろう。  「好きにしろ。」  だが私はそう答えた。居場所のない少年は、自分を受け入れない世間からの離脱を求めている。時間が終わったこの公園はまさに、少年が求める場所だろうと思うと意志とは反して私はそう言っていた。  私の言葉に少年は嬉しそうに笑ってブランコを飛び降りた。もう片方に座る私に振り返った少年は、またねと言って公園の出入口に向かった。明日追い出されてしまうかもしれない私は次を約束出来ないが、去りゆく少年の小さな背中を私は見送った。
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