1

4/7
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「いいや。お前にも淋しいとかいう感情があったのかと思って」  3人の視線が自分に集まるのが分かる。やるせなくて苦笑した。 「別にそういう訳じゃないけど」 「どーだか」  千種の生暖かい目に、むず痒さを感じる。言ってこないだけで、彼らの考えていることは大方想像が着く。とはいえ、深く追求しない姿勢に助かっているのも確かで、変な事をして自分から墓穴を掘る訳にもいかない。 「今日も賑わってるね」  食事がまだなので手持ち無沙汰な小日向は、背もたれに手をかけて周りを見渡す。その目が捉えるのは、視界にも入れずに通り過ぎた場所。 「物好きだよな。あいつらも」  千種がこの学校の多数派を物好きと称するが、ここの常識では彼の方が‘’物好き”の部類となる。更に言えば、俺ら4人は概して‘’物好き”だ。 「理解できねえ」 「千種と涼雅は特に気にするよね」 「んね。まあ、俺もあっちに行きたいとは思わないけど」  眉間に皺を寄せた2人の存在が余計この集団を異質に見せた。 「そういえば」  と、深山が話題を移す。いつの間にか、気を利かせて空気を読むのは彼の仕事になっていた。 「冬休み近いよね」 「そうっすね」 「涼雅は何かする予定あるの?」 「勉強」  珍しく深山の眉間にも皺が刻まれた。他の2人も口々に文句を言う。 「何それ夢ない」 「お前。冬休みは学生の息抜きの時間だろ」 「やーいガリ勉」  尤も人の勉学に恩恵を受けているのは誰だと、小日向には言ってやりたい。学生―特に俺にとっての本分は勉強だ。  クリスマス、大晦日にお正月。それっぽいイベントを挙げられても、これを熟さずして出来ることは無い。 なんであれ、首位は取り返さなければならない。ある意味で考え方は毒されてしまったと思うが。 「涼雅ー、ご飯来たけど?」 「あ、すみません」  深山の言葉に慌てて付いてた肘を上げ、姿勢を直す。置きあぐねていた給仕に軽く頭を下げると、美味しそうな香りを立たせた定食が置かれる。  ――ご飯はちゃんと美味しいんだよな  たった一口を噛み締めてそれを実感し、変な悔しさを感じる。 「どー?明日も食堂にしないかい?」  小日向が目を輝かせる。素直にはなりきれない言葉が口をついた。 「気が向いたらな」  隣から深山の失笑が聞こえる。1年ぶりの食堂は想像に反して穏やかだった。    
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!