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「いいや。お前にも淋しいとかいう感情があったのかと思って」
3人の視線が自分に集まるのが分かる。やるせなくて苦笑した。
「別にそういう訳じゃないけど」
「どーだか」
千種の生暖かい目に、むず痒さを感じる。言ってこないだけで、彼らの考えていることは大方想像が着く。とはいえ、深く追求しない姿勢に助かっているのも確かで、変な事をして自分から墓穴を掘る訳にもいかない。
「今日も賑わってるね」
食事がまだなので手持ち無沙汰な小日向は、背もたれに手をかけて周りを見渡す。その目が捉えるのは、視界にも入れずに通り過ぎた場所。
「物好きだよな。あいつらも」
千種がこの学校の多数派を物好きと称するが、ここの常識では彼の方が‘’物好き”の部類となる。更に言えば、俺ら4人は概して‘’物好き”だ。
「理解できねえ」
「千種と涼雅は特に気にするよね」
「んね。まあ、俺もあっちに行きたいとは思わないけど」
眉間に皺を寄せた2人の存在が余計この集団を異質に見せた。
「そういえば」
と、深山が話題を移す。いつの間にか、気を利かせて空気を読むのは彼の仕事になっていた。
「冬休み近いよね」
「そうっすね」
「涼雅は何かする予定あるの?」
「勉強」
珍しく深山の眉間にも皺が刻まれた。他の2人も口々に文句を言う。
「何それ夢ない」
「お前。冬休みは学生の息抜きの時間だろ」
「やーいガリ勉」
尤も人の勉学に恩恵を受けているのは誰だと、小日向には言ってやりたい。学生―特に俺にとっての本分は勉強だ。
クリスマス、大晦日にお正月。それっぽいイベントを挙げられても、これを熟さずして出来ることは無い。
なんであれ、首位は取り返さなければならない。ある意味で考え方は毒されてしまったと思うが。
「涼雅ー、ご飯来たけど?」
「あ、すみません」
深山の言葉に慌てて付いてた肘を上げ、姿勢を直す。置きあぐねていた給仕に軽く頭を下げると、美味しそうな香りを立たせた定食が置かれる。
――ご飯はちゃんと美味しいんだよな
たった一口を噛み締めてそれを実感し、変な悔しさを感じる。
「どー?明日も食堂にしないかい?」
小日向が目を輝かせる。素直にはなりきれない言葉が口をついた。
「気が向いたらな」
隣から深山の失笑が聞こえる。1年ぶりの食堂は想像に反して穏やかだった。
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