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「もう何があったかとか覚えてないわ」  何せ1年ぶり。  足を踏み入れた食堂は、想像通りにある一角が混みあっていた。常連使用者達は、学食制度として事前注文が出来る。所在無さげに置かれる券売機に並ぶ生徒は極々少数だった。 「俺のおすすめはねー。Bランチかな」 「とは?」 「『究極カツ丼定食』」  ガツガツと食べ進める男子高校生が目に浮かんだ。羨ましいぐらい典型的な男子高校生。そんな想像を振り払うように頭を振る。 「却下。カツ丼は無理かもです」 「早川おじさん、胃弱いの?」 「最弱」 「うわ、かわいそ」  憐憫の目を向ける小日向の今日のメニューはCランチ。焼き鮭定食らしい。  和洋中なんでも揃っているのに、先程から上がるのは定食メニューばかり。カツ丼は無理でも、聞けば食べたくもなるもので、 「俺もCにしよ」  順番の回って来た券売機のボタンを押し、カードをかざす。便宜上券売機と呼んでいるだけで―見た目もそのものだが―注文はそのまま食堂側に届くので食券は落ちてこない。 「早川、あそこ」 「ん」  席に当たりをつけておいてくれたらしい小日向に連れられる。共通の友人達が角を陣取っているのが分かった。  甲高い声が聞こえて来なくもない。そんな、この学校には似つかわしくない風景を素通りして進む。 「千種ー場所取りおつー」 「あ?誰もお前の為に席取ってねえよ」  ある種遠巻きにされているのは彼が原因だろうなという分かりやすく厳つい風貌の男子が、大きく手を振った小日向を睨む。周囲から息を飲む音が聞こえたような気がした。 「って、珍し。涼雅も来たの」 「でしょ!今日は雪が降るかもだよー」  他方、穏健そうな男子が食べていた手を止めこちらに気づく。目を開いて驚かれるので、少しだけ虫の居所が悪い。 「別にいいだろ。俺にもそーゆー気分の時があんの」  言いながら、乱雑に穏健そうな男子―深山瑠生の隣を獲得する。視線をずらせば、俺が選ばなかったカツ丼が見えて眉を顰める。 「もしかして、涼雅もカツ丼?」 「んなわけあるか」 「はは。知ってる」  バスケ部で活躍する深山は、俺の羨ましい男子高校生の代名詞で、先程浮かんだイメージそのものだった。  同じように、俺の前であり、厳つい男子―千種陽祐の隣には小日向が座った。千種の昼食はカレーのようだが、もう食べ終わっていた。 「少なくとも俺が来るのは確定なんだから、食べるの待っててくれても良くない?」 「だから、待っててやってるだろ。座って」 「一緒に食べよって話」 「あー?はいはい。悪かった」  見た目ほど―乱用する癖にこの言葉は嫌いだが―気性が荒くない千種は、小日向をあしらいながら、頬杖を付いてこちらに視線を寄越す。 「何?」
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