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あの足音が後ろから聞こえてきた。皆、肩を跳ね上げ硬直した。音を立てれば狙われる。僕は手を持ち上げた体勢で動きを止めた。燕はスマホのライトを急いで消す。三人は息を止めた。
化け物の足音以外は音の無い空間となった。
ひた、ひた、という音が段々と近づいて来る。暗闇に目が慣れてきた。ロッカーの扉の位置が見える。あと1メートルほどだ。
ひた、ひたひた。ひた、ひた──。
息も止めているのに、なぜ僕たちの位置が分かるのか。もうそこまで来ていることが足音の大きさで分かる。恐怖と緊張で心臓が破裂しそうだ。
そうか! 心臓の音を聞いているんだ。だとすると、心臓を止めるか、それに喰われるかどちらかしかない。
(勇馬くん、化け物が来る前に扉をしめて。お願い、勇気をだして!)
震える燕は、頭の中で何度も勇馬を励ました。
こうなったら、アレが到達する前に扉を閉めるしかない。でも、音楽室での俊敏な動きを思い出すと、扉を締め切る前に喰わるかもしれない。
一番後ろにいる拓也は限界だった。
(もし喰われるとすれば、やつに一番近い俺が最初だ。勇馬のやつ早く扉を閉めろよ! こんなことなら俺が閉めに行けば良かった)
ひた、ひた。ひたひた、ひたひた。
足音が速くなった。
(まじで急げ、勇馬!)
もう我慢の限界に達した拓也は振り向いた。飛び掛かってくるところをよけてやろうと構えたが、そこに化け物の姿はなかった。
「なんでだよっ!」
辺りを見回したが、数メートル先の闇以外何も見えない。拓也が動いたことで、僕も、燕も振り向いた。
「いないわ」
燕が僕の腕にしがみつく。
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