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ナナフシギ
梅雨が開けると、いよいよ夏の香りが鼻を擽る。一番最初に羽音を鳴らす蝉は『デキルセミ』だと思う。ちゃんと時間通りに地面から出てきて、やるべきことをやっている。
僕なんか、中学三年生とはいえ、朝の登校はギリギリだし教科書をたまに忘れる。とは言え、大人になったら、勝手に『デキルヒト』になれると信じている。
「なあ勇馬、この学校の七不思議、知ってるか?」
そう訊いてきたのは、クラスメートの岩井拓也。運動神経が良くハキハキした性格で、僕とは正反対の男である。
「まあ、音楽室のベートーヴェンの目が動くとか、旧校舎の横の古井戸から何かが落ちる音が聞こえるとか、一応聞いたことあるけど七つ全部は覚えてない」
「新校舎の裏山にあるロッカーの話は?」
「あぁ、それは……そんな話あったっけ?」
後ろの席に座る東海林煉紀が「おめぇ知らねぇのか?」と言って、僕の後頭部を小突いた。彼は少し乱暴なところがあり、僕は苦手だった。
「それ知ってる」
聞き耳を立てていたのか、前の席に座っている佐藤縁がくるりと振り向き、首を突っ込んできた。彼女は好奇心が強く男女問わず話に入るタイプだ。
佐藤縁の隣で一緒にお喋りをしていた近藤燕も「防空壕のロッカーでしょ?」と話に加わった。彼女は大人しく、女子の中ではとても清楚な印象の子である。
「そうそう、裏山の防空壕に開かずのロッカーがあって、扉を開けると禍が降りかかるってやつ」
拓也は続けた。
「でさ、本当にロッカーがあるのかを見に行かねぇか?」
「僕は遠慮しとく」
「何でだよ! 怖いのか?」
「そんなんじゃないけど……」
「じゃあ今度の日曜日、午後一時に正門の前集合な」
「一時かぁ。一時半のほうが都合いいんだけど」と答えたのは佐藤縁だ。
「え、お前もくるのか?」と、拓也は眉を持ち上げた。
「いいでしょ? 燕も一緒だよ」
そう言った縁は、近藤燕の顔を見る。
「わ、私も行くの?」
「そうよ、面白そうじゃん」
眉根を寄せた燕は、生唾を呑み込んだ。いかにも厭そうだ。
「勇馬くんがいるなら……まあ、いいよ」
「なんで勇馬なんだよ。こいつは頼りないぞ」と、東海林がすかさず釘を刺す。
頼ってくれるのは嬉しいけど、東海林くんが言うように僕がいたところでって話なんだけどな。
「煉も行くよな?」拓也は言いながら東海林の肩を掴んだ。
「あたぼうよ!」
「良し! 決まり」と、拓也は満面の笑みで拳を天に突き立てた。
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