第1話 人生の下書き

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 そんな感じで三足のわらじをはいている千鶴さんだが、仕事がどれか一つに偏るようなことは決してない。  千鶴さんは物事を客観的にとらえる能力に長けており、自分のことも他人事のように話す節があって、自己管理がとても上手なのだ。  喫茶スペースにいる時間が長くなったと思えば、たとえお客さんがいたとしても折を見て執筆業に戻るし、緊急じゃなければ探偵のお仕事を日を改めてから引き受けることもある。  僕が何も言わなくても、うまいこと調整してバランスを保っているのだ。  こんなふうに千鶴さんのことを考えていると、だいたい千鶴さんから声がかかるので、僕はその瞬間を今か今かと待ちわびている。  しかし、今日はなかなか千鶴さんの手が止まらない。  真剣なまなざしでパソコンの画面を見つつ、軽快にキーボードを叩く千鶴さん。  お仕事モードなので凛々しいというかビシッとしているけれど、やっぱりいつ見ても千鶴さんはかわいい。  何をしていても、どの角度から見てもこの事実だけは変わらない。
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