第1話 人生の下書き

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第1話 人生の下書き

      1  ゴールデンウィークが明けて三週間。  昨年までは失われた曜日感覚を取り戻すのに時間がかかったが、今年は違う。  千鶴(ちづる)さんと二人で探偵喫茶を営むようになってからは、カレンダーは気にしても曜日はあまり気にしなくなった。  土日になれば喫茶店利用のお客さんが増えるから、否応なしにその日が土日であると気づかされる。  平日は平日でその曜日にしか来ないお客さんも少しずつ現れ始めたから、それでなんとなく曜日を把握するようにもなった。  火曜日がお店の定休日だが、基本的に僕は千鶴さんと一緒の時間を過ごしている毎日だから、もはや仕事とプライベートの区別はつかなくなっている。  ただ、そう思っているのはおそらく僕だけだ。  千鶴さんは月曜日には必ず「明日はお休みだね」と嬉しそうに言ってくるし、仕事をしているときと家にいるときでは表情や空気感が多少なりとも異なっているのを感じる。  オンとオフの切り替えが上手な千鶴さんを視界に入れつつ、僕は今日の喫茶店営業の締め作業を行っている。  今日は金曜日で、比較的穏やかな一日だ。
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