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「何か、それ赤くねえ?」 「激辛焼きそば」  やっと卒論も終えて自由を手にした週末。大型ファションモールに併設された映画館で久々のデートだ。  映画が始まるまでまだ少しあるからと、フードコートで各々好きなもんを食うことになった。  絆のことだからオムライスかなんかだろうと思ってたのに、机の上には一瞬ナポリタンと見紛うような赤みの強い麺が。 「おまえ、子供味覚の癖にたまにそういうことするよな」 「面白そうだったからさ」 「はい、出た。面白いから買っとこう精神。残すなよ」  まあどうせ九割俺に押し付けてくんだろうけど。  豆乳○ーラとかガ○ガリ君のナポリタン味とかハーゲン○ッツのトマト味とか激辛○ニアとか、勝手に買って押し付けてきて、俺が残すと怒るっていう理不尽な奴だ。 「うえー、辛っ」  しかしまあ、情けなく顔を歪めるものの、その顔すら可愛い絆。  もともと赤い唇が香辛料のせいで一層赤くなり、まるで長いことキスした後みたいだし。 「辛痛暑い」  ベッドでは俺をトロかす舌を出し、シャツの前に指をかけ、逆の手の平でパタパタと自らに風を送る様に、頬が緩む。  薄く滲む汗がシットリと肌を湿らせ、辛みに潤んだ瞳なんてもう夜の営みの時、まんま、すよ。  えー、いや、まあ、夜だけに限ったことでもないんだけどさ。 「辛いもの食ったときってさ、ミルク飲んだらいいらしい」  俺の言葉に、絆はグルりとフードコートの店を見回した。 「ミルクなんて置いてない」  ムウと頬を膨らせ、けどすぐに口を開け、涙目で舌を扇ぐ自業自得の絆。  うー、もう、飯より、あの舌に、くらいつきてぇ。 「一舐めしてくれたらすぐ出せるけど」  ちょっと下世話なセリフを口にしてみたらジトりとした目を向けられた。 「へへへ」 「変態」  いいよねえ。もう、蔑むような視線さえも、好物ですよ、好物。 「否めませんな……ぐっ…がっ、ゴホっ、辛っ」  いきなり口に押し付けれた赤い麺。  口の中はもとより、捻じ込まれそこなって、唇や周囲の皮膚に触れた部分までもがヒリヒリと熱をもった。 「って、これ、もうテロじゃねえか、あほ絆っ!!」 「ふふん。辛いもの食ったときってさ、ミルク飲んだらいいらしいぞ」  挑戦的な瞳。  辛さで潤んでるんだとはわかってても、疼きだすのは男の性だろ。 「一舐めしてくれたらすぐ出せるけど?」  赤くなった唇にチロと舌を這わし、片頬に艶然とした笑みをのせる姿は─── 「テロじゃねえか。……阿呆っ」 「あはは」 「笑い事じゃねえっつの。つうか、映画見るの? マジで? ちょっと時間か日、改めません? 俺、落ち着いて映画見えそうにないんだけど?」  付き合って一年。  飽きるなんてことは皆無で、隙あらば絡んでたいと思う俺の心と体。 「だーめ。三千円もったいないから」  比較的金に鷹揚な御坊ちゃまの癖に、こんな時に正論を発して俺を戒めておきながら。 「……ちょ…き、ずな、さん?」 「し」  いざ映画がはじまり、主人公に魔の手が伸びるときに、俺に伸ばされたのは白い、指。  コートをかけた膝の間でサワサワと動き、俺を弄ぶ悪魔は。  結局俺の1500円を、無駄にさせやがった。  
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