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アウターが見たいという絆とファッションフロアを散策する。
「あ。山登、これは?」
「おまえにはこっちのほうが良くない?」
大人っぽい、黒いジャケットを見せてくるから、それより丈の短い緑のジャケットを示したらフルフルと首を振る。
「子供っぽいだろ。俺もう大人なの。やっぱあっちの店見る」
買う気があるのかないのか。
ただウロウロ歩くだけの情況ではあるが、そこはそれ。可愛い絆の我儘なら聞いてやろうと、ちょっとした脚のダルさは気にしない方向で付き従っていた俺。
ふと通りかかった店さきに、なかなか良さそうな皮のワレットを見つけた。
「なあ、ちょっと、これさぁ」
俺の斜め後ろで足を止めてた絆。
当然、こっちを見てると思って振り返ってみれば、その眼はこっちには向かってなくて、違う方向に向いていた。
その瞬間。
バッと、毛穴が開いたような感覚に襲われる。
その向こうにあったのは、女の子向けのアクセサリーショップで。
そこは───
「絆っ」
辛いと、そう言いながら泣いていたその姿はそう遠くない過去で。
絆の最初のオトコの影に。
まるでその影を追うような絆の瞳に。
頭に血が上る。
「見んなよ」
肩をつかまれ無理やり振り向かされた絆は、一瞬驚いたような表情を見せて、そして、小さく笑って俯くと、うんと、頷いた。
今更あんな奴を思い出すな。
いけすかないエリート野郎。
お前のどんな我儘も受け入れるけど。
でも、これだけは譲れない。
お前だけは。
譲れないんだ。
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