1/1
前へ
/16ページ
次へ

 くだらない嫉妬心。  気まずいような空気にならないよう振る舞ってはみるのものの、どうしても気分は降下する。  あの野郎に未練があるなんて思うのはゲスの勘ぐりってやつだろう……多分。  って、は? 多分て何だよ。んなわけあるか。 かすかもねーよ!  ……でも。  やっぱり、初めてのオトコってやつだもんなぁ。  盲信だったって言ってたもんなぁ。    まあ言えば俺にとっての絆、だろ?  うわ。  それは嫌過ぎる。  だって───ワスレルナンテフカノウダカラ。 「あ、ヤマト、ポップコーン、あれ食いたい! 買って帰ろ」 「ん……ああ」  絆はといえば、まあ、表面上は全く普段と変わらないように見えるけど。  ……呆れてないかな、さっきの俺の態度。  ちょっとガキ臭かった、よな。  いや、ひょっとすると、そんなどこじゃなくて、頭の中はすっかりあの野郎に占拠されてたりして!? 「何味にしよっか。うわ。ベーコン味とかある。やばくね?」 「……うん…ん? ベーコン? ポップコーンに!?」 「うん。ほら」  バラエティショップの店頭。  ワゴンに載せられた色んな種類のポップコーンの中で絆が指差す、くすんだ緑のパッケージ横には「キャラメルベーコン味。おつまみにお勧め! キャラメルとカリカリベーコンの甘じょっぱい組み合わせがくせになります!!」なんてポップが立てられていて、なんなら絆の手にはもうその緑の袋が納まってる。 「こら。また、面白いからってなんでも手にとる。さっきのテロ焼きそばだって、結局俺が殆ど食ったろ。あー、口ん中、まだ変だし」 「過去に縛られるな」 「……」  まるでさっきの俺の態度を揶揄するような言葉に、つい唇が尖る。  そんなこと言ってるお前は、もう、囚われてない?  あのアクセサリー屋に向けた視線は、たんなる反射? 「ごまかされねえからな。今度は責任持って食えよな」 「えー、いけずぅ」 「いけずじゃありませんっ」  そんな、ちょっと強硬になった俺の態度に、今度は絆が唇を尖らせ、眉を下げた。 「じゃあ、いいし、もう。ノーマルのキャラメルにしとくよ」  うなだれ、耳が完全に垂れ下がったウサギのような絆が、チロと斜めに伺う視線を寄越すのに…あーっ、くそっ! あざとい奴めっ! 「わかったよ。わかりました。こっちがいいんだろ」  あー、ほんとチョロいよなあ俺。  絆が戻そうとしたパッケージを引き取れば、とたんにパァっと輝く笑顔。 「へへへ」  くそう。  ことあるごとに可愛い奴め。  ポップコーンがとんでもない味じゃないことを祈りつつレジに向かい、きっと清澄にはこんな我が儘言ったりはしなかったんだろうなぁ、なんて思って、それはそれで嬉しいような、向こうが格上のような、なんとも複雑な気持ちになった。  
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加