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ハロウィンの街中
「じゃ、また明日ね~」
「うん。ばいば~い」
結局、あの後私の顔にも落書きされるなどひと悶着ありながらも、いつものようにお互いに手を振って笑顔で別れる。
「さて、帰りますか」
綾のんが背を向けて帰り始めたのを確認して、自分も反対を向いて自宅に向かって歩き出す。
いつも綾のんと別れるこの閑静な住宅地も今日はハロウィンだからか、子供たちと大人たちでいっぱいだ。
道端には自治会か子供会かが設置した『ジャック・オ・ランタン』やイルミネーションで綺麗に彩られている。
「綺麗だなぁ……」
そんな見ているだけで心が楽しくなる風景を見ながら呟く。
私はハロウィンが好きだ。ハロウィンはもともと悪魔などを崇拝して、生贄を捧げる宗教的な意味があったらしいけど、今じゃただの楽しいお祭りだ。こうやって色とりどりの仮装やイルミネーション、美味しいご飯。クリスマスや夏祭りもお祭りだけど、こうやって仮装して叫びまわるこの雰囲気はハロウィンにしかない。
「お、このカボチャ上手くできてんじゃん」
そんな陽気な雰囲気の中を歩いていると、道端に着飾ったジャック・オ・ランタンが飾られていた。
ポケットに入れていたスマホを取り出して写真を撮る。
うん。上手く撮れた。……でも、なんかおかしいな。あ、顔がずれてるのか。
「にしても、まるでどこかの奇術師みたいだね」
シルクハットを被せられ、黒のショートマントと燕尾服で着飾っている。
「このまま動きだしたりして。……ま、そんなわけないか」
少しだけずれていた顔の部分を直して、もう一度写真を撮る。
「うん。よしよし」
次はしっかりとした人形みたいに撮れた。
写真を確認しているとジャック・オ・ランタンがパタリと倒れる。
「おっと、倒れたらだめですよっと」
そう独り言をつぶやきながら倒れたジャック・オ・ランタンを元に戻す。
意外と重さがあるんだね。やっぱりカボチャだからかな? っていうか本物のカボチャだ。最近よく見るプラスチックのやつじゃなくて、ちゃんと中をくり抜いて作ってる……。
カボチャの部分を手で持ちながらそんな事を思う。
「珍しい事をする人もいるもんだね。……ハロウィン、か」
昔はこのジャック・オ・ランタンが妙に可愛く見えてお母さんに人形を買ってもらって、ずっと大切にしてたなぁ。
ま、今でも部屋に置いてるんだけど。
「ハロウィンってことは今日のご飯は、カボチャ料理か……。早く帰ろっと」
持っていたジャック・オ・ランタンを元に戻して、スキップしながら家に帰る。
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