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 鼓動が倍速になっているからか、白銀のゲレンデは余計にゆっくり流れていく。小指ぐらい小さいスキーヤーやスノーボーダーが僕たちと逆行して、ときどき自身の体を巻き込むまるで大波のような雪煙を上げると、快晴の空から差す日がその粉雪に反射する。ゴーグル越しでも思わず瞼に力が入る。 「双川(ふたかわ)くん、ゲレンデに何か落とした?」  ウエア越しに腕が触れる生沢青葉(いくさわあおば)さんが急に僕に訊いてきた。僕は思わず体を震わせる。そのせいで少しリフトが小さくギイギイと怖い音を立てた。 「ごめん、揺らしちゃった」 「ううん、大丈夫。どうかした?」 「何でもない」  心拍数が病的な回数に上昇する。顎を引いて見てみると、分厚いウエアの左胸のあたりが若干波を打っているのが分かった。大学の入学試験のときよりも息もできない。  告白なんて決めるんじゃなかった。絵の具をこぼしたような青い空、照らす白い日、白銀のゲレンデ。そんな絶好のロケーションに反して、後悔がふつふつ沸いてくる。通り越してイライラもしてきた。  僕たちの左側を太い灰色の支柱をゆったり眺められるスピードで追い抜き、頂上が徐々に迫ってくる。  僕は暴れそうな胸を落ち着かせるように氷点下近い空気を息を吸ってはき、これまでの経緯を思い出していた。
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