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事の発端は一週間前のことである。行きつけのバーで隣になった常連客が僕の小脇をつついてきたのだ。
「その人に告っちゃいなよ」
その人は右側だけにたっと口角を上げ、カラカラともうすぐ空になりそうなグラスを二本の指でつまんでそう言ってきた。
彼女は大城和未という人で、僕よりいくつか年上の酒好きのお姉さんだ。明るくて良い人だけれど、ついでに髪色も明るくて年下の僕に何かとちょっかいを出してくる。特に恋愛の話が大の好物らしく、その手の話には必ず首を突っ込んできた。その日も例外ではない。
「無理ですよ! するつもりもないし」
僕はぷくっと頬を膨らませて否定した。僕にそんな甲斐性はない。僕もカクテルの入ったグラスをカランと鈴のように鳴らし、喉に流す。
僕は数か月前から同じ大学に通う青葉さんのことが好きだった。講義で初めて会って、そこから少しずつ話すようになり、夏休みには一緒に短期のアルバイトを申し込んだ。頑張り屋さんで明るい性格のとても素敵な人である。
ところが、僕には好きと気付いてすぐに告白するような勇気も行動力もなく、何となくそのままずるずると冬を迎えてしまったのだ。そんなとき、青葉さんからスキーに行かないかとお誘いを受けたのだった。
「あなた、まだそんなこと言ってるの? 一緒に泊りがけでスキーに行くなんて大チャンスよ。普段、頼りないあなたがかっこよく見えちゃうかも」
「かっこよく?」
「スノーマジックって言うじゃない。かっこいい人がタイプなんでしょ、彼女」
和未さんはにやにやと笑いながら、グラスに口紅を付けて傾けた。僕にはまだ早い強めのお酒だ。
青葉さんのタイプはこの間訊いた。講義のあと、偶然帰り道が同じになったのだが、途中で話に詰まってしまい、焦って「青葉さんって好きなタイプとかあるの?」と唐突に言ってしまったのである。
あまりに直球で失礼だと思ってすぐに撤回しようとしたけれど、彼女は快く答えてくれた。「わたしはかっこいい人がタイプかな」
「頑張りなさいよ、スノーマジック」
和未さんはそう言うと、僕の肩をバシッと叩いてきた。もうかなりお酒が進んでいて、思わず自分のグラスを倒しそうになるほどその力は強かった。
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