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僕たちは流れるようにしてリフト降り場を滑り出た。頂上には多くのスキーヤーとスノーボーダーがいて、滑り出す準備をしたり立ち止まって写真を撮ったりしている。
僕たちはそんな彼らの横を通り過ぎて端に寄った。リフト降り場の近くは人が多いけれど、奥に行くとまばらになって滑りやすい。
「じゃあ麓で」
僕は青葉さんに言った。手首を持ってグローブを嵌めて、ストックのストラップを腕に巻き付けて持ち直す。少しグローブの中が湿っぽい。
「うん。すぐ追いつくからね」
青葉さんは答える。
僕はその返事にうんと頷くと、ストックを雪に刺してゲレンデへと漕ぎ出た。ザアっと雪とスキー板が擦れる音がして、つま先は麓の方を向いた。地面はパウダースノーとまではいかないけれど、水分も含み過ぎず、ゲレンデの状態は良好である。
ターンの度に速くなる。足許では、最初は岩を削るような音が鳴っていたが、徐々に撫でるような滑らかな音に変わっていった。
脛の辺りにブーツが当たって重心がつま先に乗っているのを感じながら、風を切っていく。肌を撫でるのは氷のように冷たい風だ。東京より随分気温が低いはずなのに、ゲレンデで感じる風はなぜか心地良い。頬を切るような風はスピードとともに強く当たる。
スピードも乗ってきた。ゲレンデも中腹だ。そろそろ。
僕はときどき小さく雪を巻き上げながらターンを繰り返して麓へと向かっていく。僕はこの瞬間が好きだ。理由は単純。僕がかっこいい瞬間だからだ。普通に滑っているだけなのに、雪が舞うとなぜか上手く見える。これがスノーマジックというやつだ。
普段は冴えない僕だけど、幼いころからやっているスキーならある程度上手くできる。だから、今回青葉さんをスキーに誘ったのだ。僕の得意分野で勝負に出るために。こうでもしないと、僕なんかがかっこよくなんかなれない。
僕は背中に緊張を感じながら、ターンをザクザクと決めていく。
青葉さん、見ていてね。僕はかっこいいんだぞ。
そんな気持ちで集中する。
そのときだった。
「きゃー!」
後ろから叫び声が聞こえた。
僕はスキー板を横に揃えて止まり振り返る。そして、これまで滑ってきた方を眺めて青葉さんを探した。
スキーヤーとスノーボーダーはたくさんいるけれど、彼女はすぐに見つかった。僕より数メートル後ろにいた。
ところが、彼女は滑ってきていなかった。むしろ、うずくまっていたのだ。何かあった!
僕は慌ててストックを持ち直し、そのままカニ歩きで坂を戻った。
すぐに彼女の許に着いて雪の地面を見ると、そこには片足のスキー板が取れて少し離れたところに転がっていた。どうやら滑っていて派手に転んだらしい。
「青葉さん?」
僕は両手のストックを雪に刺し、青葉さんに声を掛けた。
彼女は倒れたまま僕を見上げた。よく見ると、スキーブーツの上から左足の足首あたりを抑えていた。
「双川くん。付いていこうと思って滑ってたら転んじゃった。そのときに足を捻ったみたい」
「え!」
僕は思わずしゃがんだ。と言っても分厚くて硬いブーツの上からでは足の状態は見れないのだが。
「でも、大丈夫。麓で伝えたいことがあるんだよね。何とかそこまでは滑るから」
そう言いながら青葉さんは雪の上に手をつき、何とか立ち上がろうとする。しかし、足に上手く力が入らないのかなかなか腰が浮かせられない。
「無理しないで。ホテルの部屋に戻ろう」
「でも、双川くんはまだ滑りたいでしょ。悪いよ」
「僕のことはいいから」
僕は青葉さんに腕を伸ばす。
「掴まって」
「双川くん……」
「大丈夫。ほら、行こう」
僕がそう促すと、青葉さんは僕の肩に掴まって「よいしょ」と踏ん張って立ち上がってくれた。しかし、左足を半歩引いている。体重がかけられないらしい。
僕は「大丈夫?」と声をかけながら、肩を組みなおした。
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