アリスターは追放された。

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 ***  俺とミホコが付き合ったのは、学生の頃だった。俺みたいな地味メンには勿体ないくらい美人で、頭も良くて、料理が上手い彼女。向こうから告白してきた時には大層驚いたものである。しかも、まさかのまさかで“一目惚れしたの”ときたものだ。なんでも、彼女が好きなお笑い芸人と俺の顔がそっくりでキュンキュンしてしまったらしい。  自慢じゃないが、俺は取り柄らしい取り柄が一切ない男である。大学の成績も、運動神経も、顔も、何もかも良いとは言えない。気配りだって上手くはない。そんな俺が、十人男がいたら八人くらいは振り返りそうな美人であるミホコと付き合えたのは夢のようだとしか言いようがなかった。  しかも彼女ときたら、俺と同居して不器用すぎる性格を知ってからもちっとも失望した様子がない。それどころか“完璧じゃない人の方が、親しみが持てて私は好きだな”と来たものだ。こんな都合の良い女性がこの世の中にいるものだろうか、とついつい俺の方が心配になってしまうのは仕方ないことだろう。 ――付き合って二年。二年になるけど俺はまだ……ミホコのことを、信じ切れてない。  現実の世界は、ラノベやアニメのようにはうまくいかない。神様が突然現れてチート能力を授けてくれることもなければ、可愛らしいマスコットが現れて“魔法少女になってよ!”なんて頼んでくることもない。  だから俺に、そういった作品の主人公のような謎のモテ補正なんてついているはずもないのだ。そんな俺が、どうしてミホコに愛されているのか自分でもさっぱりわからない。  もしも、せめて俺がもう少し前向きな性格だったなら話は違っていたのかもしれなかった。都合の良すぎる出来事も“そういうこともあるのだろう”と笑って受け止めることができたなら。きっと人生はもっと輝かしく、楽しいものに変わっていたところだろう。  しかし残念ながら、俺は取り柄らしい取り柄がないことに付け加えて、かなりのネガティブ野郎なのだった。
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