アリスターは追放された。

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 *** 『次のニュースです。  近年急増している、若者から中高年の男女の自殺。昨日の朝、●●ビルの屋上から飛び降りたのは、野中友朗さん二十六歳だとわかりました。野中さんは遺書に“愛する人に自分は化物だと思われていた。生きている価値なんかない。もうこんな世界にいたくない”と残しており、数日前に“ニツバ製薬”からコチナール・アルファを購入していたことがわかっています。警察は連続自殺との関連を調べると共に、ニツバ製薬に対して……』  ニュースを見て、私は深くためいきをついた。  何故、こんなことになってしまったのだろう。 「トモくん、なんで……」  愛する人、友朗が自殺した。それもいきなり豹変して自宅を飛び出して行き、そのままビルから身を投げてしまった形である。  あの日、私と友朗は二人で仲良くコーヒーを飲んでいた。そこまでは覚えている。しかし、気づけば彼は私の目の前で顔を真っ青にして、ガタガタと震えていたのだ。 「おま、お前……美穂子!俺のこと、そんな風に思ってたのか……」 「え?どうしたの、友朗さん?」 「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」  コーヒーを飲んでから、ほんの数秒意識が飛んでいたような気がする。まさか、彼が自分にあの“自白剤”を盛っていたなんて知らなかった。だが、それ以上にショックだったのは何より、彼がそのまま意味不明なことを叫んで自殺してしまったことである。  仮に自白剤を使われたところで、精々バレたことと言えば“彼に内緒で友達とサプライズパーティーを企画していた”ことくらいだっただろう。一体、彼は何を聴き間違えたのか。薬の効能がCM通りなら、私はひたすら彼に愛を囁き続けただろうという自信がある。時々不安になってしまうほど友朗にべた惚れだったのは私の方であったのだから。  それなのに。あれではまるで。 ――一体、何がどうしてどうなったっていうの。  警察に回収された薬は、私の手元に戻ってくる気配がない。
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