アリスターは追放された。

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 ***  人々は知らない。  国がひそかに、ニツバ製薬と結託して“ユートピア計画”なるものを進めていたことを。  彼らは増えすぎた人口に対処するため、あるとんでもない計画を打ち出した。それはつまり、“この国の不必要な人間には、自分から消えてもらうことにしよう”というものである。  今回対象となったのは、“人の心の領域に踏み入ることを厭わない人間”。  誰でも秘密を持つ権利があり、秘密があるのは当たり前のことである。それを、相手の苦しみも考えず無闇矢鱈と告白させようなどという不届きものは、この国に必要のない人間である。政府はそう考え、実行に移した。結果、コチナール・アルファを購入した人間達が次々とショックを受け、自殺に追い込まれることになったのである。  本当の効果――己が一番傷つく言葉を強制的に相手に言わせる、というものを知らなかったがために。 「お電話ありがとうございます。こちらニツバ製薬より、アイザワがお受けいたします」  愚かな者達は、今日も電話をかけてくる。  馬鹿な奴らだと、心の中で嘲るオペレーターたちの心中を知らぬまま。
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