あの日の約束

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帰って、来た。 親の仕事の都合で産まれ育った街を幼稚園卒園と共に離れた。あれから10年―… 高校入学と同時に、再びこの街に戻ってきた。 同じ街だが以前と違う場所に住み、過去に何処に住んでいたかは幼すぎて記憶に無い。しかしマンションの窓から見える線路を通る赤い電車には確かに見覚えがあって、自分が過去にこの街にいた事を彷彿とさせる。 荷ほどきをしていると、幼稚園の卒園アルバムが出てきた。懐かしさにページを捲ると、入園式から順に鮮やかなカラー写真が並ぶ。 ペラペラとページを捲り、卒園式の写真まできた所で手が止まった。 (そういや、何か約束…したような…) 朧気な記憶を辿る―… (誰だっけ…) 卒園式。 「僕ね、引っ越して遠い所の小学校に行くんだ」 「えっ、今日で会えなくなるの?」 「うん」 「こっちには戻ってこないの?」 「うーん…パパのお仕事で引っ越すから分かんない」 「寂しいな…」 「僕も」 「いつ引っ越すの?」 「明日」 「明日?!の、何時?」 「昼までには出るってママが言ってた」 「分かった!最後に会いに行く!」 そう言って、ぎゅっと手を握った。 そして翌日、引っ越しの朝―… ピーンポーン 「おはよう!」 「おはよう!」 「これ…」と言って差し出したのは、太めの紐で編まれた三つ編みだった。 「ブレスレット?」 「うんん、違う。脚、出して」 言われるままに脚を出すと、三つ編みされた紐を左足首にしっかり結んだ。 「プロミスリングって言うの」 「プロミスリング?」 「うん」 結び終わると、彼はズボンの裾を少し上げ自分の左足首を見せて笑った。 「ずっと友達でいられるように」 その彼の優しさが嬉しくて、離れてしまうことが悲しくて、その場でポロポロと涙を流した。 突然泣き出した僕を、彼はオロオロしながら必死に慰めてくれた。 「大丈夫、きっとまた会えるよ」と―… ブカブカだった紐は、それでも一度も外れる事なく今も左足首についている。成長して太くなった足首にピッタリのそれは、今や身体の一部のようになってしまい久しくその存在を忘れていた。 (誰、だったかな…) 切ろうと思えば切れる紐を身に着けたまま、この街に戻ってきた。 (また、会えるのかな…) 一人きりの部屋の中、窓からは春の柔らかな風が吹き込んだ。
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