生きた花になる

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「結論から言えば、お二人はPartnerになりえます」 なんで、まさか、そんな。 こんな身近に、しかも先輩が。上手く思考がまとまらない。痙攣したように指先が震える。近くに立っていた看護師の手が宥めるように肩に触れた。 「試しに水やりしてみましょう」 そう言って医師は先輩の血液を採取すると、オレの手のひらに一滴垂らした。 効果は覿面だった。 笑ってしまうほど如実に張りを取り戻す皮膚を見ながら、どうしてだかオレの心は沈んでいた。Ownerが見つかったのは喜ぶべきことで、これで少しでも長く延命出来ると思えば感謝しかないはずだった。なのに素直に嬉しいと思えなかったのは、相手がこの人だったからだ。 だって距離が近すぎる。逃げ場がない。相手の顔を知ってしまえば負担にしかならない。相手に負担を強いることが予め決定している関係。例えていうなら、移植した臓器のドナーと生きてる限り頻繁に顔を合わせ続けるようなものだ。ストレスが尋常じゃない、彼にとってもオレにとっても。 「しかし、よくすぐに気づきましたね」 医師が先輩に問いかけると、仄暗い顔で笑った先輩は知り合いにFlowerがいるんです、と短く答えた。 「じゃあ諸々ご存知かと思いますが」 と医師は先輩にOwnerとしての役割や義務などを説明していく。途中ノックの音がしてそっと入ってきたのはオレの担当管理官だった。 「……Owner見つかったんですね、良かったです」 安心しました、と小さく笑顔を見せた管理官にぎこちなく頷く。多分これは"良いこと"なんだろう、生きていく上ではきっと。 「後はお二人で水やりについて決めていただいて、我々との定期連絡の頻度や方法を相談しましょう」 管理官に促され事細かに取り決めを行って、漸く先輩と向き合ったのは夜も大分更けた頃だった。 毎週木曜日は同じキャンパスに来てサークル活動をするオレたちは、昼休みに水やりをすることに決めた。ひとまず毎週、問題ないようなら徐々に間隔をあけていく、という提案を受け入れてから誰にも気づかれないように小さく溜息を吐いた。 ひたすらに気が重い。どうせなら面倒くさくてもジョーロを使い続けた方が良かった。身近な人間関係に生死を握られるくらいなら、いっそ。 「なあ、花見せてよ」 ヘラりと笑った先輩のハート形の口元に目をやった。 「嫌です」 「でも何かあった時に困るだろ」 萎れたり枯れたりした時に如実に形が変形する花弁の形を予め確かめておきたい、と至極真っ当な主張をされても素直に頷けなかった。秘部を他人に曝け出す行為は気が進まない、と口を閉ざすオレの背中を管理官が軽く叩いた。ワガママを言うな、ということだろう。しぶしぶシャツのボタンを上から2つだけ外し、右の肩を露出する。ちょうど肩甲棘の辺り、僧帽筋と三角筋の境目に当たる部分にあるはずの花弁を曝け出す。 「…これ、何の花?」 触れる指先の冷たさに身を固くしてスっと躱す。こんな男の肌に触れても気持ち悪いだけだろう。 「……アネモネ、だそうです」 「ふぅん」 興味が失せたのかそれ以上は何も言わず先輩は身を引いた。俯いて服を直しながらまたひとつ、溜息を吐いた。
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