45人が本棚に入れています
本棚に追加
5話:時を越えた願いの行方
「僕のおかげって、どういう意味?」
「今回の契約で、肝心なのは条件を引き出すことだからだよ」
「だからだよ。と言われても……」
僕が相変わらず戸惑っていると、翠が焼きそばパンを食べながら少しずつ話してくれた。
死なない為の願い事をするには、まず契約内容の全容を知らなければどうにもならない。しかし、その内容を知るには、『自分の好物を悪魔に差し出す』必要があった。
恐らく、これまで生き残れなかった多くの犠牲者は、心臓を取られるという条件を知らずにいたはずだと。
確かに僕も、初めは願いを叶える事しか提示されていなかった。
「この条件さえ分かれば、生きる為の願い事を考えるのは案外簡単だ」
「え?」
「まぁ……。お前みたいに分からない奴も、いるんだろうけど」
「分からない方が普通だと思う!」
翠の言葉にむくれていると、なだめるように翠が髪を撫でてくる。
「すぐ子供扱いするし、でもそれならやっぱり、僕のおかげじゃ無いじゃん。結局、僕はただコロッケをあげただけなんだよ」
むーっと膨れながら言葉を返すと、翠が「それだよ」と笑った。
「その不確定要素な行為を、いったいどれだけの人間が、悪魔と対峙した時にやってみようと思うんだろうな」
「え?」
「今回の契約において、その行為が命を救う最初の鍵だ。それがなければ、生き残る為の扉は開かない」
そこまで言って、翠が少し苦笑する。
「だけどな、碧。俺には、悪魔に自分の好物をあげるという発想がない。そもそも、そんな事をしてみようと思わないんだ。むしろそれは、俺にとっては無駄だとさえ思える行為だった。もし、最初に悪魔と遭遇したのが俺だったら、今と同じ結末を迎えていたと思うか?」
翠の手が、また碧の頭をポンッと弾く。
「だから、碧。今回はお前のファインプレーなんだよ」
ーー僕の、ファインプレー。
翠の言葉が、たまらなく嬉しかった。
いつも、一方的に頼る事が多かったから。例えその行為が偶然だとしても、僕だけではなく、翠だけでもない。これは、二人だから解決できた事なんだ。
その事実が、たまらなく誇らしい。
最初のコメントを投稿しよう!