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病気がみつかり、余命宣告を受けた。
息子夫婦と孫たちには、黙っていようと思う。不思議と恐怖はなく、先に逝った彼女に会えるのが楽しみだと思えた。
そんな折、古書の整理をしていると、一枚の古い紙切れが落ちてきた。拾い上げた拍子に指を切り、血が紙へつたい落ちた。
その紙切れはたちまち猫となり、おまけに悪魔だと名乗ったのだ。
儂の心は踊った!
死ぬ前に、こんな不可思議な出来事に遭遇できた。
彼女といつも一緒に語っていたのだ。この古書の山の中に、とんでもない魔法の本が混ざってはいないかと。どこかの幻想的な世界に繋がる本はないかと。二人でそんな馬鹿げた事を語るのが、歳を重ねてからの二人の楽しみだった。
張り切って、悪魔に茶を出した。
好物の芋羊羹も、すすめた。
大変満足そうに芋羊羹を食べた悪魔が、願い事の条件とやらを話し出した。願いを叶える代わりに、三日後に心臓を奪うという。
あと少しで病魔に命を奪われるなら、自らの意思で悪魔に差し出すのもいいだろう。あの世で彼女にこれを語れば、不可思議な事が大好きな彼女は頬を染めて儂に惚れ直すに違いない。
最期を迎えるまで、時間は三日ある。
大事な孫たちに会いに行こう。
急遽、我儘を通し、碧と一緒に東京へ向かった。翠と合流し、三人で旨いものを食った。のんびり銭湯につかった。いつもより多めに小遣いもやった。翠はどうしたのかと訝しんでいたが、碧は小躍りして喜んでいた。夜は孫たちに挟まれ川の字で眠りについた。そんな特別ではない日常が、最上の特別な思い出となった。
明日は墓参りをして、彼女とあの世の待ち合わせ場所を決めようか。
「先に逝ったお前に、案内役を任せるとしよう」
さて。
最終日には、あの悪魔に何を願おうか。
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