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僕は静かに最後のページを巡った。
「これが、じーちゃんの願いなんだ」
「ああ」
「じーちゃん、らしいね」
「らしいな」
祖父の願いを見て、悪魔リヴは永遠の宿命を終わらせる事を望んでいたのだと確信する。
「じーちゃんが願った『いつか』は、僕らが叶えた『今』なんだよね?」
「ああ。きっと、そうだな」
二人で日記帳の文字を見つめ、それからまた、僕らは顔を見合わせ笑い合う。
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悪魔・リヴ殿。
いつか、其方の願いが叶うことを祈る。
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小さな古書店の中に、夕日の光が差し込んでくる。ちょうど目線の辺りに茜色の光があたって、僕はギュッと目を閉じた。
それはほんの半日の出来事だったけれど、何故か随分と長い時間だったように思う。カーテンを閉めながら、僕は翠に問い掛けた。
「翠。やっぱりここ、手離さずにすむ方法はないのかな?」
「もう契約済みだよ。……それに、古書の知識がある人に大切にしてもらう方が、本だって嬉しいだろ」
翠が本の気持ちを考えているとは意外だったけれど、考えてみればよくここで、翠は子供の頃から本を読んでいた。
その横で、僕はいつも眠ってしまっていたけれど、本好きの翠がそう言うなら、きっと、ここを愛する祖父と祖母もそれを喜んでくれるような気がする。
「どんな人が、引き継いでくれるんだろうね?」
「いい人だといいな」
「うん!」
微笑む僕の腕の中で、まるでその会話に相槌でも打つように、猫のリヴが軽快な声で「ミャー」と鳴いたのだった。
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これは、誰も知らない秘密の1日。
この小さな黒猫が元悪魔だったことは、僕と、翠と、天国のじーちゃんだけが知る。
三人のだけの、秘密の話だ。
(了)
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