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ソファーに放置していたコンビニ袋の中から、隼人のスマホを取り出す。通話アプリでテンキーを出すと、110とタップした。
『はい、南5条交番です。どうしましたか』
「妹夫婦を殺しました。住所は――」
私の部屋の住所と、この部屋の住所を告げた。応対した男性警官は、信じただろうか。慌てた様子ではあったけれど……信じていなくても、一度様子を見に来なければならない筈だ。
通話を終えたスマホを、液晶の割れたテレビ画面に叩きつけて、ソファーに身を沈める。夏の大型台風、冬の爆弾低気圧――足かけ5年、私を狂わせた嵐は全て過ぎ去った。これからの人生は、もう心乱されることはない。
『隼人、愛しているわ』
「えっ――な、なに?!」
『ハ・ヤト……アイ・シ、テ……ルヮ……』
女の声が不自然に歪んだ。
振り向くと、割れたテレビ画面いっぱいに、バラバラになった悠佳の笑顔が映し出されている。右側から隼人がフレームインしてきて、これ見よがしにキスをする。
純白のドレスとタキシード。あれは2人の結婚式の映像で――恐らく、テレビが壊れる直前まで見られていた映像に違いない。
『ハ……ヤ、ト……ア、イシ……テル……ワ』
スマホをぶつけた衝撃で電源が入ったのか、内臓メモリがバグって、同じ映像が、歪んだ音声が、繰り返し繰り返し流れている。
「止めて! うるさい……止めなさいよ!!」
リモコンを操作しても、映像は消えない。テレビ画面本体のスイッチを押しても――。
『アイ、シテル……ハヤト……アイシ・テ、ル……アイ、シテ、ル、ワ……』
「いやあああぁ……!!」
私の絶叫が静寂を切り裂く。それでも2人は笑っていた。
【了】
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