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チャイムを鳴らすと、アヤちゃんの母親と思われる人が出てきた。
俺はこう告げた。
「あの、ユリの知り合いの者ですけど、アヤさんにお伝えしたいことがありまして……」
途端に、母親の表情が険しくなる。
「なんですか、あなたもうちの子を責めに来たの? うちの子は関係ありません! ユリちゃんが亡くなったのは、気の毒なことだと思います。けれども、うちの子を人殺しみたいに言うのは辞めてください!」
隣で聞いていたユリの表情が曇った。
もちろん、ユリは幽霊なので、相手には見えていない。
俺は取り繕った。
「い、いや、そういうことじゃなくて……」
すると、奥からアヤちゃんと思われる女の子が出てきた。
ユリと同じくらいの歳の子だ。
そして、ユリと同じセーラー服を着ている。
「待って母さん、いいから。私、この人の話、聞きたい」
隣にいるユリは、久しぶりにアヤちゃんの顔を見ることができて、とても喜んでいるようだった。
アヤちゃんにも、ユリの姿が見えるといいのに……
俺たちは、居間に通された。
俺は、ユリから聞いていた内容を、目の前に座るアヤちゃんに伝えた。
「あの、俺はユリから伝言を預かっていて……」
「ユリちゃんは、岬から落ちて亡くなったのよ。いつ聞いた伝言なの?」
俺は迷った。
真実を告げるかどうかを。
幽霊になったユリから聞いた、なんて言ったら、変な人だと思われて追い出されるだろう。
俺は、隣に座っているユリの顔を見た。
ユリは黙って頷いた。
俺は、ありのままを話すことに決めた。
「あの……信じてもらえないとは思いますが、幽霊になったユリから話を聞きました……」
アヤちゃんたちは、目を丸くする。
当然だ。
こんな話、信じる方がおかしい。
しかし、俺はユリから聞いていた話を、事細かに丁寧に語った。
小六の時に行った、春の五稜郭公園での花見のこと。
ユリちゃんとアヤちゃんは五稜郭公園でショーを見ながら、あの役者さんかっこいいよね! などという話で盛り上がった。その話をしてみた。
そんな話は、ユリちゃんとアヤちゃん、本人たちしか知り得ない内容であった。
それを聞き、アヤちゃんは俺の話を信じてくれたようだった。
アヤちゃんのお母さんの方は、まだ半信半疑ではあったが、娘の真剣な表情を見て、この話は最後まで聞くべきだと思ったようだ。
俺は続けた。ユリからの告白を。
「ユリは、『ユリちゃんは作家になんてなれないよ!』ってアヤさんに言われて、傷ついていました」
途端に、アヤちゃんの顔が暗くなった。
「覚えています。私がそんなこと言ったばっかりに、ユリちゃんは……」
「いや、違うんだ」
俺は言った。
「確かに傷ついたけど、ユリは自分の甘さをはっきり指摘してくれたアヤちゃんに感謝していたんだ。それは信じてほしい」
「でも、ユリちゃんは岬から飛び降りて……」
「事故なんだ、あれは」
「事故? 自殺じゃないの?」
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