言えなかった言葉

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「あの日、ユリは立待(たちまち)岬にある文学碑を一人で見に行ったんだ。作家になる! という決意を確かめるために。でも、立待岬は断崖絶壁になっているから、そこで足を踏み外して、津軽海峡に落ちてしまったんだ……人通りが少ない場所だから発見が遅れて、残念なことに……助からなかった」 アヤちゃんは、自分のせいでユリが自殺したのだと思いこんでいた。 ユリは自分が死んだことで、アヤちゃんが世間から叩かれているのを幽霊の状態で見てきて、心が痛い日々を送っていたのだった。 それで、この土地に縛られてなかなか成仏できなかったのだ。 アヤちゃんのせいじゃないよ。 私は自殺ではないよ。 ユリはどうしても、それを伝えたかった。 そして、ユリは俺の前に化けて出て、俺に代わりに伝えてもらうという選択肢を選んだのだった。 アヤちゃんは、納得してくれた。 ユリちゃんは自殺ではなかった。 ユリちゃんは、自分を恨んではいなかった。 ユリちゃんは、死んでもなお、自分のことを心配してくれていた。 アヤちゃんの目から涙がこぼれた。 それを見たユリも、涙をこぼした。 もっとも、その涙は俺にしか見えないのだが。
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