言えなかった言葉

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「お兄ちゃん、おはよ!」 おしゃれなセーラー服を着た女の子がそこにいる。 「誰?」 俺に妹なんていない。 誰だ、この子は? そういえば小さい頃、見知らぬ誰かに起こされる夢を見たことがある。 目を覚ましてみると、それは人ではなく、飼っていた猫が俺を起こしていたのだったが…… 今回もそれなのだろうか。 いや、俺は今、猫を飼っていない。 じゃあ、俺を起こそうとしてくるのは一体誰だ? 俺にかわいい妹がいたら幸せなんだろうな、なんて妄想をすることはある。 そんなことばかり考えているから、女の子に起こされる夢を見てしまうのであろうか。 謎の女の子は、一生懸命俺を起こそうとする。 「ほら! かわいい妹が起こしているんだから! ねぇ! さっさと起きなさ~い!」 ずいぶんと自信がある子だな。 自分のことを「かわいい妹」って言う妹が、この世にどのくらいいるだろうか。 まぁ、たくさんいるのかもしれないし、あまりいないのかもしれない。 しかし、俺には姉も妹もいない。 一人っ子だ。 俺は、「自称かわいい妹」をまじまじと見てみた。 自分で言うだけのことはあって、確かにかわいい。 髪型はツインテール。 セーラー服を着ているが、顔は幼いので、おそらくは中学生くらいだろうか。 「お兄ちゃん、私みたいなかわいい妹に起こされたいって、いつも思っていたんでしょ? ほら、こうして来てあげたんだから、ね! 起きて~!!」 俺の潜在的な欲求が、こんな夢を見させているのだろうか…… 結論から言えば、これは夢ではなかった。
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