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予想はしていたが、鈴葉と連絡を取ることはできなかった。
アキラとの通話の後、これ以上時間が遅くなる前にと、すぐにマンションの管理人に問い合わせてみたが、転居先は知らない、連絡先も答えられないということだった。
まあそうだよなと思いつつ、今度はメッセージアプリを立ち上げたら鈴葉のアカウントがなくなっていて、念の入った逃亡具合に流石にめげそうになる。
部屋の捜索の方も、どちらの部屋にも鈴葉の行方や心情の手がかりになりそうなものはなく、途方に暮れていると、スマホが震えた。
「アキラか」
『お疲れー。どうだった?』
「収穫なしだ。そっちは?連絡、思ったより早かったな」
『うん、タダでやってくれるって』
・・・・・・。
「………………は?百万とか言ってたのは?」
『二人の顛末を事細かに教えてくれれば、お金はいらないらしい』
「なんだそれ?逆にこええよ」
そんなことが百万の代わりになるというのだろうか。
アキラが要を陥れようとするとは考えにくい(ちまちまとスキャンダルを垂れ込んだりしなくても、要を社会的に抹殺する権力くらい持っている気がする)が、謎の報酬に不安を覚える。
『ちなみにうまくいかなかった場合は、うまくいった場合の妄想を語るようにとのことです』
「鬼畜すぎるだろ……」
うまくいかなくて悲しくなっているところに、更にそんな虚しい妄想をさせるとかどんな外道だ。
だが、妄想でいいということは、情報を売りたいとかそういうことではない……のだろうか。
どちらにせよ、要に選択の余地はないのだが。
「色々不安だが、今は背に腹は替えられねえ。頼んでくれ」
『あ、今住所きたから転送するね』
「もう!?いくらなんでも早すぎねえか!?俺の現住所すらお前に話してないような気がすんだけど、本当に大丈夫なんだろうな、その探偵(?)」
『うーん……大丈夫かどうか聞きたい?既に情報送信しちゃったから、知らない方が』
「それはもう大丈夫じゃないって言ってるみたいなもんだろ……」
メッセージアプリのプッシュ通知の音がして、もう手遅れであることを悟る。
「わかった、何も言うな。何も知らないことが一番安全な気がしてきた。素直に、惚気るだけで鈴葉を探してもらえるなんてラッキーだと思うことにする」
『流石は芸能人。アングラとの付き合い方をよくわかっていらっしゃる』
「おい。アングラって言っちゃってるぞ」
あと芸能人だからってアングラと付き合いがあるってのは偏見だからな!
この状況で何を言っても虚しいような気もするが。
『アメリカンホームコメディみたいな顛末期待して待ってるね』
「……確実にお前は俺が振られるのを期待してるだろ……」
『誰にも…俺の心の自由までは奪わせない…!』
「そこは否定しろよ!あと何でちょっと芝居がかってんだよ!」
謎の小芝居につっこむと、アキラは電話の向こうで『うそ、冗談』と楽しそうな笑い声をあげた。
『いやあ。今夜電話してたのがこういうコネクションを持つ俺っていう強運と、相手にどんな顔されるかもわからないのに会いに行けちゃうっていう心の強さが、やっぱり『持ってる』ってことなんだろうなって感心してるところ』
「全然感心されてる気がしねえんだが…」
アキラのコネクションまで自分の力と思うほど自惚れてはいないが、要にとって物事とは、やるかやらないかの二択であり、「やる」時は何も考えず、最後に望んだ結果になるように力を尽くすのみだ。
自分がそう決めたのだから、ごちゃごちゃ考えたりするのは無駄な時間だし、他人の顔色を見て遠慮などしていては、欲しいものは手に入らない。
とにかくまずは、会いに行って話を聞く。
情報源が不穏すぎて思うところはあるものの、アキラに感謝の言葉を伝え、通話を終えた。
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