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それから約一時間後。
メッセージアプリに送られてきた住所を頼りに向かった先、所々崩れた塀に囲まれた、ジャングルのようになっている広い敷地内に建つ傷んだ洋館を前にして、要は固まっていた。
「(ほ、本当にここ…なのか…?電気がついてるから、人はいるんだろうが、ホラーもののロケに使いそうな物件じゃねえか……)」
都内ではあるが、ここに来るまでにも比較的似たような物件(とはいえここまでのものはない)が散見されたので、これまで大きな都市開発がなく、長くこの街に住んでいる人が多いエリアなのかもしれない。
門柱についたインターフォンには、使用不可とばかりに粘着テープが貼ってあったので、仕方なく敷地内に入り、伸び伸びと育ちすぎた枝葉に腕を擦られながら、玄関まで歩いた。
インターフォンを押してから、普通こんな夜分の突然の訪問者に応対しないだろうとか、そもそも家を間違えている可能性だとかが脳裏を過り、ちょっとだけ逃げだしたい気持ちになったものの、逡巡している間に、ギィ、と重そうな音を立てて、玄関ドアが開いてしまう。
「はい……?」
僅かに警戒した様子で顔を出したのは、本当に鈴葉だった。
「お」
「っ…………!」
心配は杞憂ではあったものの、鈴葉は要の顔を見るなり、バタン!と高速でドアを閉めた。
「あっ!おい、閉めんなよ!鈴葉!」
『………………………………』
為す術も無く、しばらくドアを叩いたり声をかけたりしてみたが、鈴葉からの反応はない。
ただ、ずっと気配は感じていて、ドアの前から立ち去った様子もないので、要はそのまま話をすることにした。
「…なあ…鈴葉、聞いてんだろ?」
『………………………………』
「開けなくていいから、聞いてくれ。あのマンションからいきなりいなくなっちまった理由は、俺……なんだよな?」
『…………………………』
「俺もまあ、こういう性格だから、お前にも色々思うところがあったのかもしれねえけど……」
『……………………』
「お前が今何を思ってるのか、聞かせてくれよ。どんな言葉でもいい。その上でどうしても……っていうんだったら……その時は、俺も……」
『………………、』
「……あー、いや、できれば、話し合いの余地があれば嬉しいんだけどな」
『違う……』
微かに。
「……鈴葉?」
声が聞こえた気がして聞き返すと、ばんっ!とドアが開いた。
「だっ……て、好きに、なっちゃったから……!」
・・・・・・・・。
「…………ん…………?」
話の流れからして、どうやらそれは『マンションからいなくなった理由』だと思うのだが、しかしどういうことかわからない。
「だから……迷惑かけちゃうから、ごめん」
「ま、待てよ!」
要が硬直している間に、勝手に話を完結させた鈴葉が再びドアが閉ざそうとするのを、慌てて阻む。
「は、離して」
「(いや、そもそも好きだから今まで付き合ってたんじゃ……?????)」
阻んだはいいが、疑問符が頭の中を渦巻き、何から聞いていいのやら。
そんなまさか。別れる以前に付き合ってすらいなかったらしいなんて、アキラが聞いたら笑い死にしそうだ。
「要が、そういうのは求めてないことは分かってるけど……、気持ちは止められな」
「ほ、本当に待て!ものすごく話が見えないんだが、つまりどういうことだ?」
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