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「なくねえよ。ただ、あいつはあんまり自分のこと話さねえから(二回目)」 『単純に、カナメが自分の話ばっかりしてて話す余地なかったとかじゃなくて?』 「違……、」 『これだけの材料で事件を考えるとしたら、アラブの石油王に見初められて生活ごと空輸されたとか、異世界に転生してこっちの世界ではそもそもの存在がなかったことになったとか、それくらいしか思いつかないんだけど』 「流石にぶっ飛びすぎだろ」  どんな発想力だと少々呆れた。 『それだけ要の主張がリアリティに欠けてたってこと。…でも別にいいんじゃない?そんなに知らなかったってことは、興味なかったんでしょ。近くに住んでて便利だから…まあ、多少は好みのタイプだったのかもしれないけど、それだけで付き合ってても、いいと思うよ』 「いや、だから」  相手がどう思っていたかはともかく、自分の方は違う。  幼い頃からの夢だった俳優の仕事と天秤にかけられるほどに心は傾いている。  だが、アキラの言葉は止まらない。 『仕事の関係上、下手に恋人とか作るわけにもいかないだろうけど、やっぱり一人は寂しいし。同じマンション内なら比較的安心だもんね。愛の形は人それぞれだし、その時のライフスタイルに合わせてっていうのは全然アリでしょ』 「お前な。俺とあいつは本当に」 『……言っとくけど、話さないのと聞いて欲しくないのはイコールじゃないからね』 「、」  トーンを落とした、真剣な声音に、思わず息を呑んだ。  認めたくないのに、もしかして、という疑念が生まれる。  要が他人に自分の話をするのは、もっと自分を知ってほしいと思うからだ。  本当は相手にも同じように自己主張をして欲しいが、そうしたいと思う人間ばかりではないことくらいはわかっているので、話さない相手に同じ事を強要しないくらいの分別はある。  だから、二人でいる時に、自分の方が多く喋っていたことは確かだ。  要のせいで喋る余地がなくて、飲み込んだ言葉があったのだとしたら。 『そんな夜逃げみたいにして黙っていなくなってるのだって、言っても聞いてもらえないから、って思い詰めた末のことじゃないの?』 「〜〜〜〜」  今まさに考えていたことをわざわざ指摘されて言葉を失う。  気を遣っていなかったわけではない。  ただ…、 「仕方ねえだろ!好きな奴が目の前にいたら、いかにしてエロいことするかしか考えねえだろ!」  会話以前に、圧倒的にボディランゲージが多かったので、そもそものんびりおしゃべりなどしている時間が少なかった…というのが互いの情報量の少なさの大きな要因である。  相手を想う気持ちと衝動の強さは比例するものではないだろうか。少なくとも自分はそう思っていた。 『………全く共感できないとは言わないけど、対話を疎かにしていい理由にはならないかな。口の重い相手にこそ、少しずつでも何度も話を聞いて、些細なことにまで気を配っておくべき』 「……お前って」 『何?』 「そんなに人の気持ちに気い使ってんのに、何でいつも振られんだろうな」 『ははは……生コン詰められたいの?』 「声音がマジすぎんぞ」 『口は災いの元って言葉知ってる?俺にはデカいバックと千人からの子分がついてるんやでぇ』 「何キャラ!?こええよ」 『まあ半分は冗談だけど』  あと半分の真実がどの部分なのかによって、危険度がかなり変わってくるような気がするのだが、触らぬ神に祟りなし。余計なことは聞かずにおこう。 『つまり身体はともかく精神的な相性は悪かったってことで。音楽の方向性の違い的な?とにかくもう終わったことなんだし、今夜はパーっと飲み明かそうよ』 「終わってねえっつってんだろ!俺とあいつがいかにラブラブだったかも知らずに話を締めんな!」 『そう言われてもさー…相手は完全に対話諦めて逃げちゃってんじゃん』 「なら聞かせてやんよ……!俺とあいつの愛の軌跡をな……!」  電話の向こうの「別に回想とか挟んでくれなくていいんだけど」というぼやきは黙殺した。
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