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話の途中で。
『「えっ、あなたは……!」みたいなくだりが一切ないけど、鈴葉ちゃん、カナメのこと全然知らなかったの?』
「ぐっ…。お前は無駄に抉ってくるな」
アキラの相槌ついでのジャブに軽いダメージを受け、要は表情を歪めた。
「あいつ、テレビとか全然観ないんだよ」
言い訳がましいが、事実鈴葉の部屋にはテレビがない。
今時テレビがないのはそう珍しい話ではないかもしれないが、自分で選んで番組を視聴する場合、特に興味のないジャンルが目に入る機会というのは、垂れ流しでテレビをつけている場合よりもぐっと少なくなる。
特に要は数年前から役者としての仕事をメインにしているので、ドラマや映画をほとんど見ない鈴葉が知っているはずはなかった。
『俳優としての知名度はともかく、ファンじゃない方がオフの時に一緒にいるのに楽かもしれないけどね』
「ま、知名度のことは俺が今後頑張ればいい話だからいいんだけどな」
自分で何とかできることというのは、何ともできなかった時のことも含めて自己責任なのでそう重要ではない。
また、自分のファンだった方が、そもそもの好感度が高いという意味で多少有難かっただろうが、要が好きだと思う気持ちとはあまり関係ないのだ。
『全体的に恩着せがましいのは鼻につくけど、親切なのは好印象』
「いや、別に批評とか求めてねえから」
突然の有難いお言葉に、恩着せがましいとはどういうことかと眉を寄せた。
『俺なりに、実家に帰られた理由を探ってあげてるんだけど』
「出会いの時点から!?」
第一印象は三年ひきずると聞いたことがある。
重要なものではあるが、一応カップルとして成立していた自分とは無関係なのではないか。
『恋愛において、自分が「イケてる!」って思ってる時は大体幻想だから……』
「……………(ツッコミづれえな……)」
実体験(しかも何度も)なのだろうか、殺しきれない悲哀を感じて。
……この件にこれ以上何かを言うのはやめておくことにした。
「ゴホン。まあそれで、俺もあの時期はちょっと待機が多くて暇だったから、その後も適当に理由作って押しかけたりしたんだ。あいつは大抵部屋にいるし、……そういう意味では、確かに最初のうちは、都合のいい話し相手だったかもしれねえけど」
ドラマの撮影中、共演している俳優にスキャンダルがあり、撮影やレッスン以外での外出はできるかぎり控えろと言われていた時期だ。(適当に隙を見て近場に出かけたりはしていたが)
そう説明しながら、はっとする。
「いやっ…もちろんあれだぞ、なんかちょっと笑った顔が可愛いからもっと見たいとかそういう下心はあったぞ!?」
『別に何も言ってないっていうか特に聞きたくなかったけどそんなこと…』
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