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「……続きは有料だ」  このくらいで十分だろうと回想を打ち切ると、電話の向こうからは『えー?』と不満の声が上がった。 『制限かかるの早くない?まだ幼い頃に負った心の傷の話を聞かされたり、ならず者に襲われてるところを助けたり、結婚の約束をしつつ抽斗にもしもの時のための手紙を残して戦場に行ったりするエピソード聞いてないんですけど』 「最後のは単なる死亡フラグだろ」  自分達は一体どんな時代のどんな国に住んでいる設定になっているのか。   その抽斗の中の手紙の出だしは恐らく『君がこの手紙を読むときには……』だ。 『…お互いに何の気もなさそうではないけどさあ…。告白とかしてないしさあ…』 「この後好きだってちゃんと言ったぞ。もちろん一度きりとかじゃなくて、ことあるごとに気持ちは伝えてた……はずだ」    鈴葉は甘い言葉を言うのも言われるのも苦手なようだったが、真っ赤になりながら、それでも頷いたり小声で応えてくれたりしていた。 『不器用で好きだって言えてなかった……ってパターンではないんだ。それはよかったけど、エンタメ足りなくない?』 「お前な……」  アキラは非常に不満そうだが、フィクションのようにドラマチックな恋の始まりなどそうあるものではない。  愛が足りないだのと文句をつけられた挙句、娯楽を求められても困るというものだ。 「じゃあ、想像してみろ。お前の好みのタイプの可愛いのが、目の前で延々と可愛い様を」 『まあ……可愛い子は何をしてても可愛いよね』  恐らく、アキラの脳内の『可愛い子』は要の思い浮かべる『可愛い』とはかけ離れているだろうが、深く考えないようにして続ける。 「その上で、いけそうだと思ったら押すだろ?」 『押すね』 「そうだろそうだろ。まあもちろんその後で何度もあいつには惚れなおし……」  言いかけて、ハッとした。 「いや違う。違わねえけど、いつの間にこんな修学旅行になってんだよ。あいつを探しに行かなくちゃいけないんじゃねえか」  こんなところで語っている場合ではなかった。 『えっ、今?しかも自分から語り出しておいて?いつ探しに行くのかなーとは思ってたけど』 「そこは言えよ!心に秘めるなよ!」  アキラの奴……面白がってやがったな。 『で、体しか求めてこない恋人に絶望した鈴葉ちゃんの逃げる場所に心当たりあるの?』 「だから体だけじゃ……、……まあ、心当たりはねえけど……」 『鈴葉ちゃんの家族のことも知らないし、共通の友達もいないんだもんね』 「……………………」  改めて現実を突きつけられて、要は黙り込んだ。  探すといっても、本当にあてはない。  過去に何か手がかりになるようなことを言っていなかったかと考え込んでいると、アキラが電話の向こうで『仕方がないなあ』と苦笑した。 『どうやら本当に本気みたいだし、万が一事件だったら寝覚めも悪いし、ちょっと知り合いに頼んでみてあげるよ』   「知り合いに探偵でもいるのか」 『やってくれるかどうかはまだわからないし、かなりお金が必要になるかもしれないけど』 「いくらだよ。本当に探し出せるんなら払うぞ」  アキラの知り合いということで、若干の不安あるが、腕はいいのではないかと思われた。  しかし続く言葉に眉を顰める。 『相場はわからないけど、百万単位じゃないかな?』 「……払えるとか払えないとか以前に、流石にぼったくりじゃねえか」 『その分、早いし正確だから。外部に情報漏れる心配もないし』  それは確かに要にとっては大事なことである。 『とにかくやってくれるかどうかと金額を聞いてみるよ』  それから決めたら、という言葉に素直に頷いた。 「じゃあ俺はその間、あいつに電話してみたり、書き置き的なものがないかどうか探したり、管理人にかちこんだりしてくるわ……」 『ま、ほどほどにして食事したり休んだりしときなよ。知り合いに捜索を断られても、カナメがその気なら俺個人は鈴葉ちゃんを探すの手伝うからさ』 「……」  優しい言葉が身に染みる。  アキラは、遠慮はないし厳しいことも言うが、友達想いのいい奴なのである。 「お前って、ほんとなんでいっつも振られるんだろうな」 『 う る さ い な 』
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