第2部 第30話 閑話休題(レオンハルトの視点)

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第2部 第30話 閑話休題(レオンハルトの視点)

 アイシャの剣であり盾として《対となる竜》として認められた刹那、アイシャの感情が私に流れ込んでくる。  それでどれほどアイシャが、私のために骨を折ってくれていたのかが分かる。一度は死ななければ《対となる竜》とならないと知っていても、足掻き続けた結果。  私は女神の──アイシャの武器としてではなく、共に戦うための戦友であり相棒(パートナー)としての立ち位置を獲得した。  ずっとあの方の傍にいたい、傍にいることこそが私の居場所だと思っていた。それは間違いではなく、そして愛する気持ちも間違いない。  けれど私が元々なんだったのか、何から魔人族となったのかの経緯を、歴史を知った。それでも私は、アイシャと共にこの先の戦場にいられることが幸福でならない。  なぜあれほどまでにアイシャの傍を離れがたかったのか、その理由も分かった。全て呑み込んだ上で、全てを理解した上で、私はアイシャに全てを捧げる。  たとえ、私が貴女の隣を選ばなくても、それでも私は貴方にとって特別な何かであるのなら、それだけで──いや、そこはもう少し欲を出していきたい。  いつだってアイシャを独り占めしたい気持ちは、なくなりはしないのだ。でも、アイシャが選んだ男がルークだというのなら、ひとまず八つ裂きにして奪う選択肢は出てこなかった。  そう思いルークと会話を試みたが、思いのほかこの男と語った記憶が無いことに思い至る。 「……ところで、貴方はアイシャのどこが好きなのですか?」 「は」  面白いほどルークの表情が険しくなった。私も人のことを言えた義理ではないですが、彼も色んな意味でこじらせてそうだ。四年一緒の旅をしてきて付き合ったのは一年前というのだから、最低でも三年以上は片思いし続けていたのだろう。  それでもアイシャの傍に四年も居続けたことが羨ましくてしょうがない。聖女であり皇女となった彼女の傍に居続ける大変さを四年で私は理解した。理解しただけで、体験したわけでもない。 「……俺は十二歳まで家族ですらその顔が不気味な仮面にしか見えなかった。商人の世界は騙し騙されなど、顔で笑っておべっかを言いながら、裏では他者を貶めるようなことを平気で言うのが日常茶飯事だった。だから俺は他人が信じられなかったし、信じようとも思ってなかった。相手の身振り手振り、声のトーン、言葉選び、魔力、それだけで何を考えているか探る。そうやって損得勘定を重視して生きてきた。だから、そんな俺にとってアイシャの存在は異質そのものだった」 (急に自分語りを始めた。……しかし、これは彼なりの信頼に応えなのかもしれませんね。考えは相変わらず合理主義のようですが)
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