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「そのとおりだよ。聖獣キメラの亜種なのだけれど無害でね。らせん形の角を持った特殊なもので、尾の尻尾も獰猛ではなく、毛を刈るときにキャンディーを上げると喜んでくれるし、前足は猫の手のようでモチモチしているんだ。それから取れた毛はとっても温かいし、弾力があるんだ!」
「ですよね。ヌイグルミをギュってすると、とっても幸せな気持ちになります」
「素晴らしい。良かったら今度工房に来ないかい? 新作の意見が聞きたい」
「え、いいんですか? 楽しみにしています」
和気あいあいと話す私の隣に居たルークは「人たらしのアイシャ」と呟いていた。
私はルークから贈物と渡された猫のヌイグルミを抱きしめる。彼の両親は終始「可愛い」「並んで可愛いぞ」と遠巻きに嬉しそうにしている。なかなか賑やかなご家庭なようだ。
温かな家庭で、ルークのような感情がそぎ落とされた少年が育ったのかは、ある意味なぞだが。たぶん、色々とあるのだろう。
「それにしても、ルークはなんで私がヌイグルミ好きだってわかったの?」
「見ていたら分かる」
(相変わらず、すごい洞察力だわ)
「……それでアイシャ。生誕祭三日目の夜、ダンスパーティーで同伴を希望してもいいか?」
「!?」
唐突の申し出に私は目を見開き、ルークの両親たちは歓喜の声を上げた。
生誕祭最後の夜。空に舞い上がる花火、眩いシャンデリアの下で男女一組で踊る。それは物語にあるような華やかな舞台。
ヴィンセントという婚約者がいた時ですら、社交界に出たことが殆どなかった。あるとすれば前回の記憶で魔法学校に入学したときだろうか。
ドレスもある。踊りも練習してきたので令嬢の嗜みとして覚えていた。
「ありがとうルーク。でも婚約者を失った私が急に他国の宰相の息子と踊ったら、イグレシアス家の評判に傷が──」
「その程度で傷つくほどイグレシアス家は小さくない」
「むしろ敵が分かりやすくてやりやすいわね。アナタ」
「そうだな、アリシア。イグレシアス家の恐ろしさを理解していないようだ」
「義理妹になるかもしれないのだろう。ならば……容赦などしない」
(ぎ、義妹!?)
家族全員一致の見解に私は「ダンスのお相手、よろしくお願いいたします」と頷くしかなった。なんとも頼もしい一家だ。
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