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第0話 断罪の時間
じゃらじゃらと煩わしい拘束具の音が、やけに良く聞こえる。
錆びた鉄と腐臭と濃厚な死の匂い。
罵詈雑言の怒号が飛び交い、私は裸足で石畳の階段を上がっていく。
赤と橙色の絵具をぐちゃぐちゃに混ぜた様な夕暮れ。
なにが足りなかったのだろう?
どうしてこの結末になってしまったのだろう?
ぽろぽろと視界が歪んで、胸が痛かった。
この結果の特異点となったのは、おそらく──三年前。
「エルドラド帝国皇太子ヴィンセント・シグルズ・ガルシアは、アイシャ・キャベンディッシュと本日をもって婚約破棄をここに表明いたします」
魔法学院の卒業式の際、正義を振りかざす神の御使いの如く──彼はそう宣言した。
金髪の長い髪、琥珀色の瞳、整った容姿は物語出てくる王子そのものだろう。白の礼装に、魔法学院の白のローブがやけに似合っていた。
ステンドグラスから差し込む光すら彼の味方のようで、私にとっては絶望と同義だった。
「ヴィンセント殿下、このような場で何を──」
「黙れ! 私の妻となる者ならば、控えめで自分を主張せず、男を立てる──それこそが公爵令嬢ではないか!?」
彼が有能であればそうしただろう。皇太子としてなんら問題ないなら、口出しはしなかった。けれど眼前の男はあまりにも次期皇帝とするには未熟過ぎた。
「御冗談を。殿下に対してその様な方が婚約者、引いては次期皇妃となるのでしたら、この国は滅びるしかありませんね」
「──ッ! やはりお前などが聖女であるわけがない。お前は強大な力を持つ悪女だ」
(自分の言いなりにならないイコール悪女とは……)
「お前の悪運もここまでだ! お前の妹、リリーにも聖印がある。彼女こそがこの国の聖女、そして私の妻に相応しい!」
「ヴィンセント様」
「ああ、愛しいリリー」
呼ばれてもいないのに義理の妹リリーは、壇上に上がっておりヴィンセントの腕の中に顔を埋める。
もうそういうのは、他所でやって欲しい。この国の恥を他国に見せないで。こんな時、皇帝陛下が健在だったら……。
皇太子に賛同する者は、後を絶たなかった。教会側ですら、私が聖女として不適切だと説く。そこに私の味方は誰もいない。
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