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すでに距離感が可笑しいのだけれど、私の冷めた視線など気にもしていない。いや気にしてください。お願いします。
「私の渾身の一撃を二度も止めたのです。間違いありません」
「番を選ぶ理由がおかしいのでは………? あと、気安く触れるのは、やめて下さい」
「私に死ねと……」
(触れられないイコール死なの!?)
私の反応に気づいて、レオンハルトは苦渋に満ちた顔で見つめ返す。
「わかりました……。ならばいっそこれで……私の命を捧げ」
「捧げなくていいから!」
次は十五センチほどの銀の短剣を私に膝の上に置きかけたので、彼に短剣を突き返した。いくつ短剣を持っているのか言及しようとしたが──。
「では触れてもいいのですね! なんとお優しい」
「違う!」
否定するが、もう遅い。
再び頬に触れるレオンハルトの手は壊れ物を扱うように優しい。剣ダコ、皮膚の固さ、ゴツゴツとした手は私とは全然違う。さりげなく出来るのは、こういった扱いに慣れているからなのだろう。それはもう自然でした。これだから美形は……。
彼にとって私はきっと物珍しい感じなのだろうと、彼の告白を私は本気にしなかった。
(あ。そういえば……)
数時間前のことがやけに昔のよう感じ、思い出すのに少し時間がかかった。死に戻りしたからか、記憶がどうにもゴチャゴチャしてしまっている。
(えーっと、過去では私が浄化魔法で解除出来たけれど、攻撃の余波で私は気を失ったはず……。それで気づけば、教会に護送されていたのよね。でも、レオンハルトの話から察するに……)
レオンハルトの手首や足先へ視線を向ける。思った通り、拘束具のようなものはつけていない。もっとも教会に捕縛されているとしたら、彼が私を訪ねることなど出来なかっただろう。
(意識を失っていた私が早く目覚めたことで、過去と状況が変わってきている?)
「貴女の許可も出たので、ここで婚姻の儀を──」
「しません」
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